第14話

 ポポロは騒然とするプラットホームを急いで離れた。

 駅員は払い戻しの対応にてんやわんやで、とてもスーニャン探しに協力できそうな余裕はない。ポポロが独りで対処するより術はなさそうだ。

 どこかでスーニャンを見かけなかったか、駅に集まった見物客たち全員に聞き込みをすべきだったかもしれないが、悪い想像ばかりが浮かんできて、ポポロを苦しめた。悠長に聞き込みなどしていたら、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 およそ考えうる限り最悪の筋書きは、〈転売屋テンバイヤー〉の商売を邪魔されたコンタが腹いせにスーニャンを攫ったということ。いや、攫うだけなら、まだマシだ。

 スナネコを飼いたいと欲する人間に売り渡してしまうことまで想定できる。

 砂漠の天使と称される世にも珍しいスナネコを飼えるとなれば、人間は喜んで大金を支払うだろう。ちまちま偽造切符を売り歩くのとは比べ物にならないほどの大金がコンタに転がり込むことになる。スーニャンはタワーマンションに監禁される囚われの身に逆戻りだ。

 そんなことは到底許せない。なんとしても阻止しなければならない。

 ポポロは地下トウキヨ中を駆けずり回り、スーニャンを探した。

「スーニャン! どこだい、いたら返事をして!」

 スーニャンを探しつつ、誘拐犯と思しきコンタも探したが、こちらも見当たらない。なんといっても、コンタの得意な妖術は〈変身〉だ。ポポロの知らない別人に化けられてしまっていれば、どだい見つけようがない。

 見た目を頼りに探すのが無理であれば、コンタの匂いを嗅ぎ回るしかない。しかし、雑多な匂いのする地下トウキヨで、コンタの匂いだけを追い続けるのは難しい。一心不乱に嗅ぎ回るうち、薄っすらとコンタの匂いを嗅ぎ取ることはできたが、すぐに別の匂いに紛れて行方を追えなくなってしまった。

「コンタ! ぼくが悪かった! いちど話し合おう!」

 ポポロが必死に呼びかけるが、コンタは雲隠れしたままだ。右往左往するポポロをこっそり物陰から盗み見て、ほくそ笑んでいるのかもしれない。

「ごめんよ、スーニャン。ぜんぶぼくが悪い」

 ポポロは足を棒にしながら歩き、すっかり疲れ切っていた。声も嗄れ果て、弱気の虫が顔を出した。

 こんなことになるならば、コンタに逆らったりしなければよかった。

 コンタが用意した偽造チケットを本物だと認めてさえいればよかった。

 ただただコンタの言いなりになって、コンタと友達でいればよかった。

「……教師失格だ」

 教え子を危険に晒す教師など、百害あって一利なし。

 スーニャンを無事に保護したら辞表を書こう、とポポロは思った。

 しかし、うなだれる前にまずやるべきことがある。

 なんとしてもスーニャンを探し出す。

 辞表を書くのは、それからだ。

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