第71話 煩慮

 栞の家に行ってから二日が経った。この日は俺が栞を部屋に招き入れる日。初めて、祐希以外のやつが俺の部屋を見る日だ。

「はぁ……」

栞には絶対に会うことのない男子トイレでため息を零す。

「どうした?」

隣で用を足していた浩介が、俺に問いかけてくる。

「ん? 今日、栞を部屋に呼んだんだよ」

浩介の問いに深刻に伝えると、

「マジで? ヤんの?」

亮太みたいなことを、冷静な声で訊いてきた。

「アホ。しねぇよ! 勉強すんの」

「ま、そうだよな。彼女(仮)だもんな」

「そう」

「で、自分で誘って緊張してるわけ?」

「まあ、そうだな。悪いかよ」

「い~や~?」

浩介はそう言って、何か含みのある笑みを残してズボンのチャックを上げた。

「なんだよ……」

「お前さ。幽霊の事、マジで好きになってるとかないよな?」

突然の質問に一瞬、時が止まったような感覚に襲われた。

「ないない。俺が、あんな奴の事……」

この言葉に自信を持ちきれない自分が、俺の中に顕在していた。

「だよな。なんてったって幽霊だもんな。それに、お前には祐希ちゃんがいるし」

「は? 祐希? 祐希は幼馴染み。アウトオブ眼中ってやつだよ」

浩介の的外れな問いに、一気に縮こまった心が解き放たれた。

「もったいないな。まぁ、それはそれとして。あと、半月くらいか?」

「夏祭りまで?」

「そ。ちゃんと約束したんだろうな?」

「もちろん。そこはしっかりした。後は任せた」

その言葉を口にした時、再び心がグッと握りつぶされた。

「任せろ!」

強く胸を叩いた浩介を見て、漠然とした大きな不安にかられながら、俺はぎこちない笑顔を浮かべながら教室に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る