第66話 寒い部屋

「ううん、大丈夫……」

栞の震えている声を聞くと、こちらまで緊張してしまって自分の勉強がピタリと停滞してしまった。さらに、気温が上がってきたのか分からないが、やたら部屋が暑く感じてきた。

「あの、暑くない?」

止まったペンを置いて栞に問うと、

「そうだね……」

そう言って栞は冷房をつけてくれた。

 それから数分後。暑かった部屋が心地よいくらいの温度になった時、部屋の扉がコンコンと二回ノックされた。

「はい?」

栞が返事をすると扉が開かれ、栞の母が部屋に入ってきた。その途端、栞の母はビクッと身体を震わせて、

「この部屋、寒くない?」

そう言ってきた。俺と栞からしたら、とても心地いい温度だっただけに、栞の母はすごい寒がりなのかと疑ってしまった。

「そ、そんなことないよ?」

栞が慌てて返事をする。この様子から見るに、栞の母は寒がりとゆうわけではなさそうだ。それを見て俺は、栞の部屋に置かれているデジタルの時計に視線をやった。時刻は六時を回るくらい……。俺はその下に表示されていた室温に、目を丸くした。なんと、室温は十度。この数値だけ見ると、とても低い温度だ。

「栞。この部屋、十度よ?」

栞の母も気づいたらしく、栞に問いかけると

「ほんとだ!」

そう言って栞は慌ててエアコンを止めた。

「よくこんな中、勉強できたわね?」

そう言って、俺たちが変、みたいな視線を送ってくる栞の母に

「さっきまで暑くなかったですか?」

純粋な疑問を投げる。が、栞の母の頭には明らかにクエスチョンマークが浮かんでいた。

「そ、そうですよね。いくら、もうすぐ夏だと言っても、ここまで冷やすほどじゃないですよね~」

それを見て、いよいよ怖くなった俺は作り笑いでそう言って、その場をごまかした。

「あ、お母さん。何しに来たの?」

栞もその空気に乗っかって、今気づいたように母に尋ねる。

「あぁ、お茶とお菓子持ってきたの」

栞の母はそう言って、散らかったこっちのテーブルの上じゃなくて整頓された勉強机の上にお盆を置いた。

「ありがとうございます」

姿勢を正して丁寧に頭を下げる。悪い印象を断ち切ろう……。そう思った瞬間、一気に部屋が寒く感じた。

 ――よくこんな中、勉強してたな。俺……

冷静になった途端、寒くなったこの部屋。栞とのこの温かい関係が、一気に冷めきってしまったようで、どうしてかすごく切なく感じた。

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