第38話 愛しい彼女

「ふぅ、今日も疲れたぁ!」

大きく伸びをしながら、いつも通りに栞の隣を歩く。

「そうだね。でも、一限目の数学の問題、ちゃんと解けてたね? 私は分からなかった」

栞は少し悔しそうに小さくそう零す。なんとも愛らしい表情に、胸が苦しくなる。

「そっか。ん~じゃあ、俺、勉強教えようか?」

「えっ……」

栞の表情から見て取るに、僕はだいぶ勉強が出来ないように思われているらしい。

 まぁ、無理もないだろう。授業態度もどちらかと言えば悪い方だし、勉強という勉強をしているイメージも皆無だろう。それに、放課後は亮太たちと屋上でゲームをしているくらいだ。こんな遊び惚けてる奴が勉強できるわけない。そう思うのは至極真っ当な考え方だろう。

 しかし、俺は違う。祐希に勉強を教えてとねだられていることからも薄々感じ取れるだろうが、俺は勉強が出来る。なんなら、一年時のテストは、ほとんど95点以上。自分で言うのもあれだが"天才型"というやつなんだろう。

「教えるよ。俺一応、入試は主席合格だったし、今も学年トップだから」

少し自慢っぽくなってしまって、うざいと思われてないか心配になって栞の方に目をやると、

「凄いね! 加藤君!」

目をキラキラと輝かせて、栞は明るくこちらを見上げてきていた。

「そ、そんなことないけど……」

そんな可愛いとしか形容できない表情をされては、こちらも緩む筋肉を抑えられない。

「じゃあ、テスト期間になったら教えてもらってもいい?」

「もちろん。毎日は栞の方も大変だろうから、週二でどう?」

「わかった」

そう言った後、栞の表情が一瞬だけ曇った。

「どうしたの?」

「あ、えっと。場所って、どこでするの?」

唐突の上目遣い。また胸が苦しくなる。

「図書館とかって考えてたんだけど、ダメかな?」

優しい声で提案すると、栞は安心したというか、緊張が解れたというか、ふぅっと胸を撫で下ろして、メモ帳に予定を記入してパタンと閉じた。

「それじゃあ、また明日ね?」

「うん。また明日」

勉強を教えようか? と聞いたときよりも軽くなった声。もしかして栞は、俺が勉強できないと思ったんじゃなくて、という所を不安視してたんじゃないだろうか。ふと、そんなことを思った。まぁ、家でやるなんて言う度胸ないし、いらぬ心配をさせてしまったと申し訳なく思いながら、俺はいつも通り栞に手を振って、来た道を一人で戻った。

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