第20話 同じ趣味
俺が向かっているのは、アイドルのCDが売られているコーナー。この日は、俺が心待ちにしていた好きなアイドルの新曲の発売日。なのだが、このまま久保がついてきてしまうと俺的には都合が悪い。というのも、俺がアイドルを好きだということは浩介や亮太、雄哉。それに幼馴染みの祐希にすら言ったことがなかったからだ。
依然うしろをついてくる久保。俺はアイドルコーナーを横目に見て通り過ぎようとすると、背後から聞こえてきていた久保の足音が止まった。振り返ると、久保は見たことないくらい目をキラキラと輝かせて、俺の好きなアイドルのCDを見つめていた。
「く、久保もそのグループ好きなの?」
立ち止まってすました顔で聞く。すると、
「久保も?」
久保はすごく不思議そうな表情を浮かべて、まっすぐこちらを見つめてきた。
――ヤバい……。繋ぐ言葉まちがえた……
俺は頭を掻きながら、必死に言い訳を考えた。しかし久保は、
「加藤君も、CoursieAiles(クルシェール)好きなの?」
と、純粋無垢な眼差しで聞いてきた。そんな目で見つめられては嘘など吐けるわけがない。
「ま、まぁ……」
少し含みを持たせて曖昧に答えると、
「じゃあ、加藤君も新曲を買いに?」
と、さっきまでと打って変わって、流ちょうなタメ口が僕に向けられる。久保って、こんな顔するんだな……。
「そう、だね」
久保の空気に圧倒されて、ぎこちない返事をする。
「そっか! 私も買いに行こうと思ってたんだ」
久保は表情を一気に華やげて、距離をグッと詰めてくる。
「そ、そう。じゃあ、一緒に買おうか」
「うん!」
新曲のCD四枚を各々持ってレジに向かった。
「久保の買うよ」
「え、そんな。悪いよ……」
「いいから。貸して?」
俺は久保のも一緒にレジに出して、計八枚のCDの代金を支払った。
「はい、久保の分」
「あ、ありがとう」
久保は俯きながら、四枚のCDが入った黄色のレジ袋を受け取った。
「じゃあ、開けるために近くのカフェでも行こうか」
「そうだね」
俺達は先ほどの教訓を生かして、今度はエスカレーターで一階まで降りた。
「エスカレーターだとだいぶ楽だね?」
一段上にいる久保の方を振り返ってそう言う。久保は手元の袋を見つめながら小さく「うん」と返した。
その後、ビルから出て駅前にある少しお洒落なカフェに入った。
「二名様でよかったでしょうか?」
「はい」
「こちらにどうぞ」
店員さんの後ろに続いて、促された席に座った。
「ご注文お決まりになりましたら、こちらのベルでお呼びください。それでは、失礼いたします」
店員さんは少し頬を赤らめて小さくお辞儀をしてからカウンターの方に小走りで消えて行った。
「とりあえずコーヒーでも頼もうか?」
「うん」
少し長居をすることになるかもしれないので、サイドメニューとスイーツを選んだ。
「これで……」
注文を終えてメニューを閉じようとすると、最後のページにカップル割なるものが見えた。
「これ、使えるよね?」
少し緊張しながら久保に訊くと、
「う、うん」
と、久保は目に見えるくらい動揺して、膝上に置かれている手が落ち着かない様子だった。
「じゃあちょっとでも安くするために使っちゃおうか」
「うん」
「じゃあ、あのこれを」
「かしこまりました。では、ごゆっくり」
注文を終えて店員さんの方に視線を向けると、店員さんはさっきとは暗い表情でそう言って、カウンターに消えて行った。
「それじゃあ早速開ける?」
俺は母に話しかけるように少し笑みを浮かべながら久保に訊くと、
「ちょ、ちょっとまって。その前にお手洗いに……」
そう小さく言って、足早にトイレの方に走って行った。
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