第14話 懐かしい下校

 しばらく歩くと、当たり前だがさっき出た校舎が見えて来た。校庭に待っていた桜の花びらは跡形もなくどこかに去ってしまい、花が咲いていた枝にはもうすでに薄緑色の葉が日光に照らされて優しく主張していた。

「あれ陽太。もう帰ったんじゃなかったの?」

葉桜に目を奪われていると、後ろからいきなり祐希の声がした。

「あ~ちょっとな。祐希はいま帰り?」

「うん」

「じゃあ、一緒に帰るか」

「だね」

今日は浩介たちの登場はなかったので、僕は出てくる前に手を打とうと祐希と帰る約束を結んだ。

「久しぶりだね、一緒に帰るなんて」

「そうだな」

言われてみればそうだな。いつからだったかな、祐希と帰らなくなったのは。記憶を辿っていると、

「なんで一緒に帰らなくなったんだっけ?」

祐希が呑気な声で訊いてくる。確か、中二のときくらいか。

「確か、祐希が俺と付き合ってんじゃないかみたいに言われて、それが面倒だったからじゃなかったっけ?」

記憶を必死に探って見つけた答えをぼんやり返した。

「そうだったっけ? まぁ、何でもいいや。陽太と帰るの、なんか楽しい!」

まるで遊園地にでもいるような笑顔を浮かべる祐希の横顔は、あの時よりも大人になったように見えた。

「あ、こないだの後輩さんへのアドバイスはどうなったの?」

祐希はパッと思い出したように、左手の掌に右手をポンと当ててこちらを見上げてきた。

「あ~。デートは今週末って言ってたから結果は分からないわ」

「そっか。上手くいくといいね?」

「そうだな」

久保を家まで送る時と違って、ものすごく会話も弾んで笑顔のまま家に到着した。

「じゃ、また来週」

「ん~。勉強わからなくなったら呼ぶかも」

「明日はパスな? 社会人のサッカーに呼ばれてる」

また、サラッと嘘を吐いて祐希を欺く。まぁよくあることだから祐希は素直に納得して、

「そっか。わかった。それじゃあね」

「おう」

お互いの玄関の前で手を振って家の中に入った。

 久々に幼馴染みとの下校も悪くないなと思った今日この頃の俺だった。

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