第13話 敬語のカノジョ
久保との関係が始まってから二日が経過した。
俺の周りに大きな変化はなかった。が、小さな変化といえば、俺の狭い交友リストの中に久保の名前が加わったことだろうか。よくよく考えてみれば、これは大きな変化なのかもしれないと今この時に実感する。
「明日はデート、だな……」
嫌な気持ちを感じさせないように、緊張しているのを装って小さな声でボソッと口に出す。
「はい……」
久保は俺の緊張がうつったかのように、語尾を弱めてそう返す。そんなことより、少し気になっていたんだが、付き合って敬語での会話は違うだろう。きっと、どこかでニタニタ笑みを浮かべながら監視をしている亮太たちに後で何か言われる……。
俺は一度、バレないように小さく息を吐いて、
「あのさ、久保?」
静かに声を掛けた。
「な、なんですか?」
少し身構えて不安そうに返事をする久保。やっぱり敬語だ。
「敬語はやめない? 俺たちさ、付き合ってるんだし」
なんか言葉にすると妙に恥ずかしくて、視線を外して小さく伝える。すると久保は、
「ご、ごめんなさい。でも、加藤君に、た、タメ口なんて……」
挙動不審で、視線をあちらこちらに泳がせて慌てて言葉を繋げる。なんか、逃げ場を失った草食動物みたいで可愛い……。
――ん? 可愛い……? そんなわけない!
「そんな。全然タメ口で良いよ? むしろ、そっちの方が楽」
心の中でそんなことを思いながらも、自然に本音を伝える。それでも久保は
「でも……」
とタメ口での会話に否定的な態度を取り続ける。俺ってそんなに怖いかな……。少し不安になってしまう。
「それじゃあさ、明日のデートから敬語禁止にしない?」
果たして、解決案になってるのだろうか。よくわからないが提案してみると、久保さんは
「わかりました」
とようやく承諾してくれた。今のが久保にとっての解決案になってたみたいで安心した。
「明日なんだけどさ、駅前で良いかな?」
もうすぐで久保の家だというのに、ここで初めて明日のデート先についての話を出す。
「はい……」
彼女のか細い声は、嬉しいのか嫌なのか、感情が全然読み取れなかった。
「それじゃあ、明日の十時くらいに迎えに来るから。外で待っててくれると助かるかな」
「は、はい」
「それじゃあ、また明日な」
「はい……」
この日もいつも通りに軽く手を振って、彼女の家の前で別れた。
「よし、任務完了……」
久保の姿が見えなくなったのを確認し、小さく零してから僕は踵を返して帰路についた。
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