第15話 怪しく輝く瞳
…遠い昔の夢を見た…
…お父と…お母と…オイラ…
…オイラはまだ3つやそこらの子供で…
…お母がオイラの事を抱き上げてくれるんだ…。
…女性にしてはゴツゴツと固いお母の手…
…何故 母の手はこんなにも固いのか?
…その感触の理由を考えもしないで、オイラは何となく居心地が悪くてグズっていた…
…きっとオイラの反応に凄く困ったのだろう…
…お母はとても悲しそうにしていて、オイラもどうして良いか分からなかった…
…そんなオイラの顔をお父が覗き込んできて…
…オイラの左手を掴むと、お父はオイラの手首に数珠のような物を着けてくれたんだ…。
…その数珠は、見ていると不思議と安心出来て…
オイラはそのまま、眠ってしまった事を覚えている…。
オイラが覚えている一番古い記憶…
あの日を夢に見たのは…
これが初めての事だった…
…桃太郎達が旅に出てから1日が過ぎようとしていた…
初の野宿…
茣蓙を敷いてはみたものの、小さな石や土の凸凹、近すぎる草の匂いや虫の気配…
家の中で寝る時には経験出来ないそれら全ての違和感が襲ってきて、桃太郎と桜を眠らせなかった。
桃太郎
「…なぁ桜…
…眠れそうか?」
桜
「…桃ちゃんが話し掛けて来んかったら眠れる…。」
桃太郎
「…桜が返事しなければ寝てたのに…。」
桜
「…あ、また話し掛けられたから もう眠れんわ…。」
そんな会話を繰り返しながら、堪えるようにクスクスと笑う桃太郎と桜。
そんな2人を他所に、夜叉丸と小太郎は既に寝ていた。
桃太郎
「…妖怪って眠るんだな…。」
桜
「…そりゃそうじゃ…。
…彼らも疲れれば眠ぅなる。
…私達よりも野宿に慣れているし…
…この大地から溢れ出る【気】や、大気の中に存在する【気】…
…水の中に流れ続ける【気】を吸収できた方が良いけぇ、野宿の方が彼らにとっては落ち着くんよ…。」
…寺子屋の授業では習っていた…。
…知識はあったはずなのに、桃太郎は桜みたいに自然とその知識が出て来ない…
旅に出て、最初からその知識を有効に活用出来ている節がある桜に、桃太郎は僅かばかりの嫉妬心を抱いていた…。
だが同時に、桃太郎の中に小さな疑問も生まれていた…
今より数年前…
桜は桃太郎の両親の手によって郷に連れて来られた…。
特に桃太郎の母親に懐いていて、その当時はやや無口で…
それから数日間は同じ家に暮らしていた事を覚えている…。
…桃太郎は郷に来るまでの桜を知らない…
…何処で産まれて、どんな生活を送ってきたのか…
…何故、郷に来たのか…
…親はどうしたのか…
…こんなに旅に慣れているようにみえるのは何故か…?
…聞けば桜を傷付けてしまいそうで、今まで聞けなかった…
…桜が桃太郎と出会うまでの生活で、旅や野宿をした事はあるのだろうか…?
…妖怪と戦った事はあるのだろうか…?
…身の危険を感じた事はあるのだろうか…?
…そして…
…それらを聞く事は桜に嫌な想いをさせないだろうか…?
それらの疑問が桃太郎の頭の中で膨らんで、少しだけ質問したい気持ちになった時…
まるで先手を打たれるように桜の口が開かれた…。
桜
「…桃ちゃんはこの旅が終わったらどうするん…?」
突然の質問に困惑する桃太郎。
まだ旅に出たばかりで、見たい物も食べたい物も経験したい事もいっぱいある…。
夜叉丸の体質だって改善出来るかどうかも分からないのに…
旅の後の事なんて…
考えてもみなかった…
そう思ったら桃太郎の頭の中に色んな事が思い浮かんできて…
とうとう考えが纏まらなくなってしまった桃太郎は、逆に桜がどうしたいのかが気になった…。
桃太郎
「…桜はどうしたいんだよ?」
質問を返す形になってしまった…
それは少し無礼だったかも…
桃太郎の中に芽生えた小さな罪悪感…
しかし…
返答を期待して恐る恐る桜の顔を見た桃太郎の瞳に映ったのは…
気持ち良さそうに寝息をたてる桜の姿だった…。
桃太郎
『…え? …寝た?』
人に質問をしておいて寝落ちするとは予想外。
余りの意外さに驚いた桃太郎は更に目が冴えてしまった。
完全に一人取り残されてしまった桃太郎。
桃太郎は隙だらけの桜を見て怒りの拳を震わせると共に…
…「今なら一本取れるんじゃないか?」…
そんな悪巧みを思い付いてしまったのだ…。
そもそも頼んでもいないのに付いてきたのは桜の方だ。
ちょっとくらい悪戯しても喧嘩にはならないだろう。
その程度の軽い気持ちで起き上がり、桃太郎は木刀を桜の方に構えてみた。
…楽しい夢でも見ているのか…?
満面の笑みを浮かべながら、幸せそうに眠る桜。
…その表情を見ていたら…
桃太郎はつい、桜と口付けを交わした事を思い出していた…。
…記憶には無い…
何せ、意識を失っていた桃太郎に桜が口付けをしたのだから…
だが、そう言う事実があった事は知ってしまった…。
…自分が…桜と…
知らない内に経験してしまった初の出来事を思い、桃太郎の視線は桜の唇に釘付けになっていた。
…顔が熱い…
…脈が早くなる…
…心臓の鼓動が強く、大きくなっていく…
桃太郎の頭と心は、次第に興奮状態へと陥っていた…。
…少しだけ触ってみようか…?
…今なら気付かれないはず…
桃太郎がそんな甘い事を考え始めた時…
それは起こった…
桜
「悪戯したらダメじゃけぇなぁ!?」
起きていたのか?
それとも寝言だろうか?
…そのどちらが事実であっても関係はなかった…
桜の声に夜叉丸と小太郎が目を覚ます。
飛び起きて、辺りを見回す夜叉丸と小太郎
。
…しかしそこには桃太郎の方を向いて眠る桜と、桜に背を向けて眠る桃太郎の姿があるだけ…。
しかも二人の距離はそれなりに離れている。
…何かあったようには見えない…。
夜叉丸と小太郎は 先程の大声は桜の寝言だと判断して、再び眠りに就くのだった…。
桃太郎
『…あ…危なかった…ッ!!』
…優しく静かな夜の闇の中に、桃太郎以外の三人の寝息が響く…。
先程までとはまた別の意味で心臓を高鳴らせていた桃太郎。
…彼の旅の初日は、眠る事なく朝日を迎える事になるのだった…。
…翌朝…
目の下に隈を作っていた桃太郎。
彼は疲労感のある様子で肩を落とし、脳が活動していないようだった。
桃太郎の様子に唖然とする桜達。
桃太郎も当然眠れたと思っていたのに…。
何処を見るでもなく遠くを見つめて動かない桃太郎を見て、夜叉丸は昨晩の桜の叫び声が寝言ではなかった事を理解してしまった。
夜叉丸
「…大丈夫か桃太郎?」
小太郎
「二日目からコレじゃあ先が思いやられるな!」
桜
「もう! いつも夜更かしはダメじゃ言うとろうが!」
…桃太郎は分かっていた…
…自分が悪い…
頭を抱え、歯を食い縛りながらも、桃太郎は「これは桜に悪戯をしようとした自分に対する天罰なんだ」と自らに言い聞かせた。
皆からの心配の言葉に耐え続けた桃太郎…。
しかし、まともな返事も出来ない桃太郎を、桜は見るに見かねてしまった。
桜
「桃ちゃんが少しでもサッパリできるなら川の水でも汲んで来るけぇ、皆はここで待っとってぇ!」
そう言って走り出した桜。
竹筒を手に取ると、彼女は下駄の音を鳴らしながら川の方へと姿を眩ませていった…。
桃太郎
「…不思議な女…。」
郷で桜の育ての親になった人達を桃太郎は知ってる…。
武力や法術に突出している訳ではないが、優しくて常識があり、ただただ平和な日常を望む人達。
その人達と桜の仲が良い事も知っている…。
その人達が育ててくれた恩に報いるように、桜は立派に成長している。
郷での桜は非の打ち所が無い。
成績は一位…
剣術も一位…
周りからの評判も最高…
育ての親としては大層自慢だった事だろう。
…桃太郎には真似できない…。
同い年である事もあって、桃太郎はそんな桜と共に歩んできた…。
…桜の事なら何でも知っている…
…そんな気がするのに…
…桜の事が何も分からない…
そんな気もしていた…。
桜は何故 桃太郎に着いてきたのか?
義理の両親に旅の了承は得たのだろうか?
桃太郎と旅をして、いったい何がしたいのか?
…それらが分からなくなって…
旅に出てから既に一日が経っていると言うのに、桃太郎は急に不安になってきた…。
桃太郎
「…郷に残っていれば…
…良い仕事も見付けて…
…良い出会いもあって…
…幸せを約束された人生が待っていたのにな…。」
桃太郎の口から溢れ落ちた独り言…。
桜が走っていった方向を見ながら発言してしまったその内容を、夜叉丸と小太郎は聞いていた。
…桃太郎が桜の同行に迷い始めている…
桜を連れて来てしまった事に対する後悔のようなその感情は、いつか桃太郎の足枷になるのではないか?
夜叉丸と小太郎の脳裏に、そんな不安が過っていた…。
その頃…
既に水を汲み終えた桜は、自らの手で掬った川の水を飲んでいた。
…透明で…川底までハッキリと見える美しい川…
優しく音を立てながら流れるその川に反射した光が、水を飲み終わった桜の顔に照り返される。
川の水面に視線を落としたまま動かない桜…。
その瞳は怪しく光り…
その手は…
不自然に川に向けて伸ばされていた…。
その表情からは何がしたいのかは伺い知る事が出来ない…。
無表情に…虚ろに…
まるでそう言う置物のように動かなくなってしまった桜…。
…いったい何をしようとしているのだろうか…?
…いったい何がしたいのか…?
…もしかしたらこのまま動かないのではないだろうか?
何かしらの身体の異常で、助けを求める事すら出来ないのかも知れない。
誰かが見ていれば声を掛けたくなるであろうその状況…
止まった時の中のようなその状態がまだ続くのなら、誰かがそうするべきだった…
だがここには誰もいない…。
このままでは何かが手遅れになるかも知れないと思われた…
…その時…
急に何かに気が付いたように振り返った桜。
物音がした訳ではない…
そこに誰かの姿があった訳でもない…
それでも…
桜の瞳は【何か】を捕らえ、その一点だけを見詰めていた。
…【そこ】は桃太郎達が野宿をしていた場所より先…
桃太郎達から見れば来た道を少し戻った場所…
草木が生い茂り、とても見通しが悪い木の陰…。
桜から見えるはずのないその場所に【彼ら】は居た…。
…般若の面を着けた女性と思わしき人物と、その手下と見られる山賊風の髭を生やした男性が二人…
三人とも清潔感に欠けるが身なりはそれなりで、体つきから見ても食事に困っているようには見えない…。
般若の面を着けた女も細身だが血色は良く、男達も筋肉質。
三人は十分な体力を有しているように見えた…。
…そして…
誰から見ても、彼らの見た目は親切そうには見えなかった…。
草や木の陰に身を潜めてはいるものの、絶対に見付からないようにしようと言う様子は無く…
見付かったとしても問題は無いような、どこか不敵な笑い声…。
彼女達は余裕のある笑みを浮かべていて、何か作戦を立てようと会話している様子を伺えた。
そんな彼らを一瞥すると、それまでしゃがんでいた桜は立ち上がり…
草を蹴るような小さな音を立ててその場を後にした…。
顎髭の男
「…お頭…あいつら幾らくらい金持ってますかね…?」
泥棒髭の男
「取り敢えず酒が飲みてぇなぁ!?
酒買えるくらいの金は持ってねぇなかなぁ!?」
般若の面の女
「お前らバカ言ってるんじゃないよ!
それじゃ、まるで死亡フラグを立てているようなもんじゃないかい!
酒が欲しけりゃ奪いな!」
顎髭の男
「…お頭…
死亡フラグって言葉を使っちゃダメじゃねぇですかい?」
泥棒髭の男
「舞台背景 考えましょうやお頭…。」
般若の面の女
「うるさいね!
良いから金だよ!
飯や酒は奪えばいいが、整備の行き届いた強力な武器は金出さないと手に入らないからねぇ…。
あんなガキ共じゃあ大した金は見込めないが、小銭でも稼いでおいて損はないんだよ…!」
正に三流の会話。
これから倒される事を予想させてしまうやり取り。
彼らはその期待を裏切る事なく…
気が付いた時には、桜に背後を取られていた。
桜
「そんなんいけん(ダメだよ)!
お金を盗られたら桃ちゃんが旅に困りおろうが(困るでしょうが)!」
桜の優しめの怒号に振り向いた山賊達。
彼らは驚いた様子で桜を見ると、質問もせずに襲い掛かった。
桜を囲み、各々が手にしていた刃物の先端を向ける。
般若の面をした女は桜を背後から片手で捕らえ、残されたもう片方の手で持っていた短刀を桜の首筋に当てる。
その切っ先が押し当てられた部分からは、微かに血が滲み、桜を押さえ付ける女の腕は桜の身体に食い込んでいった。
般若の面の女
「…まだ子供みたいだけど…なかなかヤるねぇ…。
私達の背後を取れるヤツなんて初めて見たよ…。」
それでも桜は表情を変えなかった…。
恐怖は無い…
怒りも無い…
ただ山賊達を外敵と見なすその意思だけが、桜の瞳に宿る…。
桜は肩越しに、背後から自分を取り押さえている女の目を見た。
その時…
般若の面をした女が感じた恐怖…
しっかりと握り締められていたはずの桜の身体は離され…
密着していたはずの女の身体は桜から距離を取っていた…。
桜
「…私、暴力は嫌いなんよ!
じゃけぇアナタ達はこのまま帰ってくれんかな?」
男達に背を向け、無防備に般若の面の女の方へと振り向く桜。
その手には刀さえ握られておらず、その身は攻撃の構えさえ取っていなかった。
それでも桜に攻撃する事を躊躇ってしまう…。
彼女達は山賊…
相手を選ばず、理不尽に他人の物を奪い取る悪党。
得たい物があるのなら、対象を殺める事さえ躊躇わない。
…そのはずなのに…
桜の首に突き付けた短刀を離してしまった…
桜の背後を取っているはずの男達さえ、桜に攻撃する事が出来ない…
…何故なら…
…やれば…殺られる…
理由や根拠ではなく直感でそれを感じ取った山賊達の額には汗が滲み、背筋には悪寒が走っていた。
自分達の首筋にこそ、既に刃が当てられているような感覚…。
それが山賊達の動きを制限していたのだ。
般若の面の女
「…あんた…何者だい?」
…桜はその問いに答えなかった…
…その代わりのように微かに微笑んだ桜の口元…
その冷たい笑顔を見て、面の女は恐怖に震えた。
面の中を伝い、首元から流れ出た女の汗。
その量が彼女の感じている恐怖心の大きさを物語っていた。
死を目前にしているような…
いや…
死ぬかも知れない体験なら、山賊である彼女なら経験した事くらいはあるだろう。
それでも彼女が動けなかったのは、死よりも恐ろしい出来事が待ち受けていると感じたから。
桜を敵に回す事が過去に経験の無い危険となって我が身を襲う…
般若の面の女はそう感じていたのだ…
…しかし…
人は計算だけで生きていく事が出来ない生き物…。
自尊心…闘争心…疑い…可能性…
それらが彼女の中で渦巻いて、その判断力を乱していた。
手に持った短刀に力を込め、覚悟を決めたように攻撃の体制を取る面の女。
彼女は大きな奇声を挙げると同時に、勢い良く桜に向かって駆け出した。
…面をしていても分かる…
彼女が今、どんな表情をしているのか…。
きっと恐怖心だけに染まった表情…
どうして良いのか分からず、助けを求めているような、そんな表情…
きっと男達も限界だったのだろう…
面の女の暴走を切っ掛けに、彼らもまた桜の背後から襲い掛かった…。
少しでもこの奇襲が成功する確率を上げるために…
…しかし…
彼女達の思惑が成功する事はなかった…。
桜
「えい! やぁ!」
瞬きの間に面の女達の目の前から姿を眩ませた桜。
桜は山賊達の頭上へと飛び上がり、彼女達の視界から逃れたのだ。
そして桜は鞘に入れられたままの刀を腰帯から抜き、その鞘の部分で山賊達の頭を叩いた。
大して力を入れていないように見える桜の攻撃。
しかし山賊達の頭部には大きなコブができ、たちまち意識を失って地面に横たわる事となるのだった…。
…桜の帰りが遅くて、待ちくたびれた様子の桃太郎…。
桃太郎だけでなく夜叉丸や小太郎もそれぞれに休憩を取りながら、彼女の帰りを待っていた。
桃太郎の腹の虫が鳴く。
その表情からは眠気が去り、先程までよりはスッキリした様子が伺えた。。
桃太郎
「腹減ったぁ~…。
朝飯の準備は出来てるのに、桜はまだ帰って来ないのかなぁ~?」
小太郎
「人間は大変だな!
一日の内にこんなに何回も腹が減るなんて。
お前も妖怪になったらどうだ?
確かに腹が減る事はあるが、自然の気に触れるだけで満腹になるぞ~!」
桃太郎
「妖怪になるってどうやるんだよ?」
桜の帰りを待ちながら朝食の準備を済ませていた桃太郎。
桜が走り去ってから気が付いた事だが、桃太郎は料理用に水を少し持ち歩いていたのだ。
今日の朝食は味噌味のおじや。
出汁なんて入れられなかったが、郷から持ってきた鰹節は振り掛けた。
質素だが、それなりの味。
豪華な旅行と言う訳でもない桃太郎達にとって、こんな朝食から始まる一日がこれからの日常だった。
早く慣れなくては…
そう思いつつも、桃太郎の頭に過る祖母の味。
だがもしもそれを再現出来たとしても、旅の間 持ち歩くのは困難だ。
桃太郎は痛みに耐えるような気持ちで祖母の味を諦めると、目の前にある自分の味で満足しようと心を切り替えた。
…その時…
桜
「あー!
今日の朝食は味噌のおじやかぁ!
ん~! 美味しそう~!」
突然、何の前触れも無く川の方から姿を現した桜。
桃太郎達を待たせた割には満面の笑顔を見せた彼女の両手には、抱えるのが大変そうだと感じる程の山菜があった。
桃太郎
「桜! どうしたのそれ!?」
帰りが遅くなった事など忘れ、つい目の前にある食材に心を奪われてしまった桃太郎。
その瞳はキラキラと輝き、つい先程まで頭の中を満たしていた疑問や迷いの全てを何処かへと吹き飛ばしていた。
桜
「川の方で見つけたんよ!
椎茸に葱にたらの芽!
それに見て~! 筍もあったんよ!
味噌味のおじやに合うかな?」
桃太郎
「桜すげぇ!!!
流石は寺子屋一位!!!」
一通り騒ぐと、桃太郎と桜は取ってきた山菜を適当な大きさに切り分けておじやへ入れた。
そして待つこと数分…
遂に完成した味噌味の山菜おじや。
それぞれの器に盛り付けたら最後に刻んだ葱を添えて完成だ。
出来たばかりの朝食を勢い良く掻き込む桃太郎。
そして桃太郎とは対照的に一口ずつ口へ運ぶ桜。
食べ方は違えど、その直後に二人が見せた反応は一緒だった。
何度も息を吹きながら、口へと運んだ食事の熱に耐えるような様子を見せた桃太郎と桜。
暫くの間その反応を見せて、熱が取れた食事をようやく飲み込むと、二人が同時に口にした言葉は同じ…
桃太郎・桜
「美味い!!!」
満足そうに朝食を食べ、満たされた表情を見せる桃太郎を見て満足する桜。
まるで桃太郎を守る事に甲斐甲斐しさを感じているようなその反応に、夜叉丸と小太郎も安心を覚えるのだった。
桃太郎
「なあ? 本当に夜叉丸と小太郎はいらないのか?
食べる事は出来るんだろ?
まだおかわりはあるから、一緒に食べないか?」
心配する桃太郎の目線に負けて、桃太郎の隣に座る夜叉丸。
小太郎も、桃太郎の懐から出てきて桃太郎の器に入っていた残りのおじやを一気に飲み込んだ。
小太郎
「うん! 美味い!
初めてにしては良く出来てるんじゃねぇか?」
桃太郎
「あー! オイラのおじやが!」
夜叉丸
「あ、悪い。
俺が取ったので最後だったわ。」
桃太郎
「ぎゃーーーッ!!!
予想外ですッ!!!」
賑やかな朝食。
林に響き渡る笑い声。
可能ならばこんな時間が、いつまでも続いて欲しいと願いつつ、桃太郎の旅の二日目が始まるのだった…。
般若の面の女
「…あ…あの女…
…いつか見つけ出して復讐してやるからな…」
顎髭の男
「…お頭…
もう止めときましょうよ…。」
桃太郎の知らない所に、小さな復讐の火種を残して…。
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