第14話 旅の醍醐味
…吉備団子…
それは餅米と水飴と上白糖…
そして黍(きび)を原材料として作られる岡山銘菓。
店頭で販売されるようになったのは桃太郎達が旅をしているこの時代より遥かに未来の事となるが…
その原型となるものは この時代にも既に存在していた…。
それこそが…
桃太郎のおばあさんが最も得意とする和菓子…
桃太郎・桜・小太郎
「やっぱり美味しい~!
おばあさんの吉備団子!」
吉備団子の製法は幾つかある。
黍粉を使って茹で上げた団子状の物…
餅黍を使った、柔らかくモチモチとした食感の物など…
数通りの製法の中で、桃太郎のおばあさんが作るのは餅黍を使ったものだ。
桃太郎
「柔らかく、甘く、ほのかに香る酸味…」
桜
「一口で食べるには丁度良い大きさと、ついもう一口食べたくなる美味しさ…」
小太郎
「何個でも食べたくなる…
この優しい味は…」
桃太郎・桜・小太郎
「忘れられない故郷の味だよね~!」
旅に出てから半日。
今はお天道様も空の一番高い所で燦々と輝いている時間帯。
街は活気に溢れ、人々はどこか慌ただしく活動していた。
夜叉丸
「桃太郎、俺にも1つくれないか?」
桃太郎
「一緒に食べよう! 夜叉丸!」
ここはそんな街中から少し外れた街道にある茶屋の直ぐ近く。
茶屋が既に満席である事と、おばあさんから持たされた吉備団子があった事などの理由から、桃太郎達は店の外で食べていた。
和菓子に合うお茶はないが、郷から汲んできた水を竹筒から飲む。
竹の香りと共に飲む水は不思議と美味く、旅の疲れを癒してくれた。
桃太郎
「はぁ~、これが毎日食べれなくなるのかぁ~。
寂しくなるなぁ~。」
桜
「今ならまだ取りに帰れるよ?」
小太郎
「お前ら…もう郷愁に襲われてるのか…?」
初めて自分の意思で踏み出した郷の外…。
想像した事はある…
知識としての郷の外も寺子屋で学んだ…
幼い頃に両親に連れられて、何回か旅した事も…
…しかし…
自分の意思で目的を持ち、頼れる大人もいないままに何処かを目指すのは、とても心細く頼りないものである事を初めて知った。
これからは用意してある食事は無いし、用意してある風呂も布団も無い。
保証された安全も…
帰れる家も…
桃太郎はそれをとても寂しく感じると共に…
郷の近い年齢の子供達の中では一番早くそれを経験出来た事に優越感を感じていた。
桃太郎
「これからはどんな甘味と巡り合えるかなぁ!?
なぁ! 夜叉丸!」
帰りたがるどころか逆に知らない世界を知ろうとする。
そんな桃太郎の姿が、沈みかけていた皆の雰囲気を持ち上げていた。
夜叉丸
「倉敷まで行けば色々あるはずだ。
【むらすずめ】や【調布】。
岡山城の大手門の辺りまで行けば【大手饅頭】も売っているぞ。」
桃太郎・桜
「全部食べたい!」
小太郎
「気が早ぇよ!」
ついつい旅の目的を忘れて旅行をしている気分になってしまう桃太郎達。
…楽しくて仕方がない…
しかしそんな楽しさも、いつまでもは続かなかった。
桃太郎
「ちょっと厠に行ってくるー!」
桜
「じゃあ私達はここで待ってるわー!」
悪は世に蔓延るもの…。
望もうと望むまいと、それは我々の前に突然現れる。
桃太郎
「う~! もるもる!
厠はどこだ~?」
自己の満足のため…
多くの場合、そのために生まれる悪。
それは時に力の無い者同士で徒党を組み、ただ平和に生きる者達を苦しめる。
桃太郎の視界に入ってきた、その者達もそうだった。
金が欲しい…
だから他人から搾取する…
…「あの店を襲おう」…
そう話し合う彼らの表情は不敵に笑い、不気味な雰囲気を滲ませていた。
…桃太郎が見た事のない暗い笑顔…。
何故、彼らはそんな事を考えるのか?
何故、他人が努力した結果を掠め取ろうとするのか?
それを不思議に思った桃太郎は、ただその疑問を晴らすためだけに歩み寄っていた。
桃太郎
「オイお前ら! 金が欲しいのか?」
桃太郎の声に意表を突かれたように振り返る男達。
彼らは桃太郎よりも背は高いのに驚く程に身体が細く、その身なりは桃太郎が見た事がないほど貧相なものだった。
頬はこけ、目は窪み、身体の至るところの皮は少し弛んでいる。
もともとはそれなりの体格だった者が、急速に痩せてしまったような印象だった。
しかも、恐らく彼らの体力的限界は近い…。
その険しい表情が それを物語っている。
桃太郎にさえ襲い掛かってきそうな印象だ。
恐らくこれから襲撃しようとしていた目の前の茶屋に向けられた、農業用の鍬や鎌。
それを彼らは、ゆっくりと桃太郎の方へと向けていた。
桃太郎
「…それで今度はオイラを襲うのか?」
…命が狙われていると言うのに…
…桃太郎は不思議と恐怖心を感じていなかった…。
まだ阿修羅にやられた傷も完治はしていない…。
ただでさえ弱いのに万全ではない状態で、不安が無いはずはないのに…。
それでも桃太郎は怯える事なく男達の目を見ていた。
まるで分析するように…
或いは、彼らを理解しようとして…
「…なあ…このガキ、割りと身なりが良いぜ…」
「…大金は持っていなさそうだけど、小銭なら持っていそうだ…」
男達の会話が聞こえて来た…。
標的を桃太郎に変えるような内容…。
その会話に小さな怒りを感じると共に、桃太郎は小さな焦りを感じ始めていた。
…尿意…
そもそもそれを解消するために厠を探していた…。
見付からなければ草村でも良いと思っていた…。
しかし…
この場面に遭遇してしまった桃太郎は尿意を発散するどころか、見なかった事にする事さえ出来なくなっていた。
更には次に桃太郎の耳へと届いてしまった一言…
それが桃太郎を退くに退けない状態に追い込んでしまった。
「…コイツ弱そうだぜ…
…わざわざ店を襲わないで、コイツから金目の物を奪おう!」
…弱そう…
何も知らない男達にそう思われた事が、桃太郎の自尊心を激しく傷付けた。
自分の苦悩を知らない男達に…
自分がしてきた努力を知らない男達に…
あんなに強い おじいさんから一本を取った あの気合いを知らない男達に「弱そう」と思われる事が、過去に無い怒りとなって桃太郎を襲っていた。
左の腰に差していた おじいさんの木刀。
それを桃太郎はゆっくりと引き抜いた。
桃太郎
「…一つ…
一夜一夜に人見頃…」
男達
「は?」
…単純な怒りだった…
バカにされた事を怒っただけの…
人の努力を知りもしないでバカにした男達への不満からくる怒り…
桃太郎
「…二つ…
…富士山麓に鸚鵡鳴く…」
男
「…ちょっと…
さっきから何を言ってるんだお前は…」
…そして…
そもそも茶屋に強盗に入ろうとしていた目の前の男達の犯行に対する不満が、桃太郎に木刀を握らせていた…。
桃太郎
「…三つ…
真面目に働いている人から金を盗むなんていけません!」
お金とは…
時間を掛けて…努力して…
誰かのために…
そして自分のために働いた人が得る結果…。
それを努力もしない者が軽率な気持ちで奪い取るだなどと、許してはならない。
…それを誰かが【偽善】と呼ぼうと…
…例え万人から白い目で見られたとしても…
桃太郎
「旅人に美味しいお茶と茶菓子を提供しているご主人達に迷惑掛けようだなどと太い野郎共だ!
お前らみたいな輩はこのオイラが成敗してやる!」
桃太郎は腰から木刀を抜き、その切っ先を男達に向けた。
男達は怒りを露にした桃太郎の威圧感に負け、上体を仰け反らせてしまった。
…それでも背に腹は代えられなかったのだろう。
男達の中の一人が手に持っていた棒切れを刀のように持ち変え、切っ先でも何でもないその先端を桃太郎に向けた。
「…うるせぇんだよ…」
明らかに顔色が悪く、明らかに余裕が無い男の様子。
今にも命燃え尽きそうな彼の行動は…
人生を掛けた最後の足掻きだった…。
「…お前みたいな血色の良いガキに何が分かる!!?
何日も飯を食えなかった人間の気持ちが…
死ぬかも知れない恐怖に耐えながら【雇ってくれ】と懇願し続けた俺達の気持ちが…
お前みたいに飯に困った事のなさそうなガキに分かるはずがない!!!」
…事情は飲み込めた…
…そんな予想は出来ていた…
恐らく冷静な会話さえ出来ないであろう事も…。
…しかし…
…それでも桃太郎は諦める訳にはいかなかった。
「死ぬほど腹を空かせた事の無いガキが…
俺達に正論を語るなッ!!!」
そう叫んで振り上げた棒切れを桃太郎の頭部に目掛けて振り下ろした男。
桃太郎は自らの木刀を横にして構え、その柄と鎬に両手を添えた。
振り下ろされた棒切れの軌道を妨げるように。
「うぉぉッ!!!」
目を瞑ったまま、気合いの乗った雄叫びと共に打ち込まれた男の棒切れ。
それは固い物に当たったような手応えと共に動きを止めた。
…当たったのか?
…倒せたのか?
…或いは目の前の子供を撲殺してしまったのか?
…自分はとうとう、人まで殺めてしまったのか?
多くの感情が男の中で渦を巻くように暴れていた。
…本当はこんな事をしたくなかった…
そんな後悔の念と共に、男は恐る恐る自分がしてしまった事を確認しようとしていた。
…男が再び目を開いた…
…その時…
彼が目にした光景は…
自分の持つ木刀で攻撃を防ごうとして…
それでも防ぐよりも先に、男の棒切れを額に直撃させてしまった桃太郎の姿…。
その額からは真っ赤な鮮血が流れ出て…
…それでもその表情は、何も間違いなど起きていないような…
…「無かった事にしよう」としているような…
誤魔化したい気持ちでいっぱいの表情に見られていた…。
それでも、余りに堂々たる真っ直ぐな視線で男を見返す桃太郎。
笑ったら良いのか、更に攻撃を打ち込めば良いのか…
心に迷いが生まれた男達はその視線から危険な何かを感じ取り、怯えた表情で数歩後退していた。
…攻撃の手を止めた男の様子を見て、勝負時を感じ取った桃太郎。
桃太郎はあえて攻撃の姿勢は見せず…
やはり何事も無かった事にしようとして、木刀を握り締めたまま構えを解いた。
棒立ちのまま斜に構えた桃太郎。
男達は桃太郎が攻撃してくる意思が無い事を理解して…
安堵しつつも、その不思議な威圧感に何も発言出来なくなっていた。
桃太郎
「…お前達の事情は概ね分かった…。」
…全てを察したような表情で語り始めた桃太郎…。
男達は桃太郎の額から流れ続ける血を見ながら思っていた…
『…あれ、絶対に痛いヤツだ…!』
そんな事を思われているとも知らずに、桃太郎は冷静を装い続けていた。
…実はこの時、桃太郎は勝負を焦っていた…。
…桃太郎にはその理由があったのだ…
何故なら…
桃太郎は先程の一撃を受けて、我慢していた小便を少し漏らしてしまっていたからだ…。
桃太郎
「…だがそれでも…
…お前達の蛮行を許す訳にはいかない…。」
…この歳でお漏らしだけは嫌だった…
…だがしかし、ちょびっとだけ漏らしてしまった…
…その事実は変えられない…
…だがそれでも桃太郎は、まだ諦めていなかった…
袴に滲み出て来ない程度のお漏らしならバレないで済む…。
そんな「ギリギリ大丈夫だ」と願う気持ちが、桃太郎の全神経を股間に集中させていた…。
全身から力を抜き…
敵に襲い掛かるような無駄な労力は捨て…
表情さえも捨てて…
…そう…
戦意なく、冷静に見えているかも知れない…
だが実のところ、お漏らしを回避するために全力を尽くしていたのだ。
…男達を言葉で説き伏せる事が出来るのかどうか…
それに全てが掛かってる。
桃太郎の脳は今、男達が納得して退いてくれるような言葉を探すと共に、たった二つの事でいっぱいになっていた。
…「気付かれていませんように」…と…
…「早く終われ」…
このままではきっと決着はギリギリになる…。
そんな直感が桃太郎の背中を押していた…。
桃太郎
「…お前達が金に困っている事も…
…常識的であろうとした意思も…
…それでも誰の救いの手も差しのべられなかった不運も、良く分かった…。」
そう言って、桃太郎は懐に残っていた吉備団子を取り出し、水を入れていた竹筒と一緒に男達に差し出した。
桃太郎
「…だがまだ間に合う!」
桃太郎の竹筒には家紋が刻まれていた。
郷長であるおじいさんとおばあさんの家紋。
それは郷長の家系の者だけが持ち歩く事を許された家紋で、郷の外では使われていないものだった。
桃太郎
「この家紋を見せるだけでは不足かも知れない…
だからオイラからの書状も付けよう。
ここから西へ向かい、丘を5つも越えれば郷が見えて来るはず。
そこでこの竹筒に刻まれた家紋を見せろ…。
きっとオイラのじい様とばあ様が事情を察して受け入れてくれるはずだ。
…きっと仕事も見付かる…。」
男達はそれを聞いて驚いた。
こんな子供に助けられるだなんて思ってもいなかったから…
しかも目の前には豪華な飯とは呼べなくとも、僅かばかり腹を満たせる物がある。
喉を潤せる水もある。
目の前にいる子供の話を聞けば仕事にも…
今日の宿にさえありつける…。
そう思ったら、男達の瞳には涙が溢れて来ていた…。
手に持った鍬や鎌を手放す男達…
明らかに戦意を喪失し始めた彼らの中で、たった一人だけ…
桃太郎の言葉に抗おうとする者がいた…
「…ふざけるな…」
つい先程まで、強盗する他に道は無いと思って覚悟を決めていた…
「…今さら…こんな事でやめられるかよ…」
気が遠くなる程の時間、飢えと疲労に耐えて頭を下げ続けてきた…
「…今まで何をしても俺達の事を見捨ててきたこの世の中を…
団子と水と家紋だけで許せるはずがないだろ!」
それでも自分達を救おうとしなかった世の中を恨む余り、男には何が正しい判断なのかが分からなくなっていたのだ。
究極の飢えとはそう言うもの…
他のどんな判断よりも、真っ先に奪い取る事と食らう事が頭と心を支配する。
何なら桃太郎の身体に噛みつき、その血肉を食らっても良い…。
それ程に鬼気迫るものが、その男を突き動かしていた。
その男と同様に追い詰められていた他の男達にも、その想いは伝染していく…。
納まり始めていた悪意が、再び膨らみ始める…。
…男達の瞳は、自らが手放した武器を映していた…
…その手が…
手放したはずの悪意を、再び掴み取ろうと動き出した…
…その時…
桃太郎
「ふざけるなッ!!!」
辺りに響き渡った桃太郎の怒号。
その余りの迫力に、男達は一瞬恐怖した。
桃太郎
「お前の復讐心のために他のやつらまで巻き込んで、今後を考えられない人生を歩ませようって言うのか!!?
そんな身勝手が許されてたまるか!!!」
その正しすぎる正論に、男達は戸惑った。
自分達に悪の道を歩ませようとする言葉も納得出来る。
それ程の人生を歩んで来た…。
だがそれでも目の前の子供の言葉にも納得出来る。
このままでは自分達に未来は無いと…。
心の弱い彼らにはその答えが出せなくて…
文字通り棒立ちのまま、桃太郎と仲間の言葉に、その心も身体も揺れ動いていた。
「じゃあお前の言う事を聞いたら俺達は救われるって言うのか!!?
証明してみろよ、このクソガキッ!!!」
追い詰められていたのであろう…
最後の力を振り絞るような怒鳴り声を挙げた男。
血眼になって桃太郎を睨み付けるその目は、まるで獣の如く…
…しかし…
桃太郎にはその男の瞳を見ても…
恐怖など全く感じなかった。
…それどころか、男のこれまでの人生を思って同情さえする…
…何か力になれれば良いのに…
…そんな事を感じながらも…
桃太郎はどんどん追い詰められていた…
…「このままでは間に合わない」…
そんな気持ちでいっぱいになってしまった桃太郎…。
激しい尿意が桃太郎を襲う…
もう余り時間は残されていない…
そう感じていた…
桃太郎にとっても、これが最後の賭け…
あと一言…
たった一言…
それで男達が納得する完璧な言葉…
それを探して、桃太郎の脳は全速力で動き始める。
そして取り出された、たった一つの吉備団子。
それを手のひらに乗せて男の前に差し出すと、桃太郎は彼の目を真っ直ぐ見ながら言った。
桃太郎
「…食え…!」
…桃太郎の言葉に従いたかった訳ではない…
だが彼の腹部を襲う強烈な空腹感が、それを拒絶出来なかった…。
抗いたかった…
桃太郎を殴り飛ばして奪い取れば良いだけだと自分に言い聞かせていた…
しかし…
男の口はそんな意思に従う事はできず…
目の前にあった たった一つの吉備団子に手を伸ばし、それを自らの口に運んでいた…。
…たった一口…
直ぐに飲み込めてしまった吉備団子…
その味…
鼻から抜けて行く香り…
微かに満たされた空腹感…
そして微かに満たされた心…
それらが男の口から本音を吐かせていた…
「…美味ぇ…」
男の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる…
その口の中は唾液で満たされ、その表情は至福に満たされていた。
男の反応を見て、次々に桃太郎へと駆け寄る他の男達…。
一人…
また一人と、彼らは吉備団子を手に取った…。
吉備団子がその口に運ばれる度に満たされていく彼らの心。
…たった一口…
腹がいっぱいに満たされる事はないし、こんな事で彼らの人生が良くなる事はない…
しかし…
死の危機に瀕した彼らの心は少しだけ満たされた事で…
少しだけ誰かの心が分かる余裕を生む事が出来ていた…。
「…美味い…」
「…美味いよ…」
「…本当に美味ぇ…」
口々にその喜びを口にする男達…
泣きながら噛み締める吉備団子の味は彼らにとって…
命の味と言い換えても過言ではなかった…。
…最後まで抵抗を続けた男が桃太郎に歩み寄る…。
…彼はいつの間にか棒切れを手放していた…。
彼の目からは涙が溢れ、その両手は腹部の辺りで桃太郎に向けられていた…。
「…俺が間違っていた…
…悪かったよ…少年…
…キミの名前は何と言うんだ…?」
完全に改心した男。
その手は桃太郎に握手を求めているのだろうか?
桃太郎も木刀を腰に戻し、男の気持ちに応えるように右手を差し出した。
桃太郎
「…【桃太郎】って言うんだ…。
…宜しくな…!」
桃太郎の右手と男の両手が握手を交わそうとしていた…。
「…ありがとう…
…桃太郎…
…本当にありがとう…!」
感謝の気持ちを言葉に表しながら、少しずつ桃太郎に伸ばされていった男の手…。
…しかし…
男の手は桃太郎の手をすり抜け…
桃太郎の身体に向けて真っ直ぐ伸ばされていった…
「…この感謝は絶対に忘れないよ!!!
…キミは俺達の命の恩人だッ!!!」
そして強く…
しっかりと抱き締められた桃太郎の身体…。
その下腹部は圧迫され、桃太郎が耐えてきた【もの】を一気に外へと押し出していた…。
…茂みの中に響き渡る桃太郎の悲鳴…
…桃太郎が皆の元に戻った時…
…彼は袴を履いていなかったそうな…。
小太郎
「俺、ずっと桃太郎の服の中にいたから見てたぜ!
コイツ、小便が我慢出来ずに漏らしちゃったんだ!」
桃太郎
「小太郎ッ!? いつから…ッ!」
桜
「ぇえッ!? 桃ちゃん、まだ旅の初日だよ!?
それどうするん!?」
夜叉丸
「…予定外の出費だが…新しく袴を買うか…。」
…旅とは、予定外の事が起きるもの…
…時にそれは、悲劇と言う形で牙を剥く…
…これもまた旅の醍醐味…。
こうして子供達は大人へと成長していくのだった…。
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