第6話 二人で導かれた世界へ ヤスオとアヤ
光の世界を求め、タナカヤスオは一人で樹海を彷徨っていた。
所々、この世の者ではなくなった者達が残したものがチラチラ目に映り、吐き気と恐怖に体が震えたが、自分もそのうち仲間になるのだと思い直し、歩みを止めなかった。
しばらく歩き、ふと足を止め、空を見上げる。
木々の間から、気持ちの良い青空が広がっている。
しかし、自分の心の中は、どす黒い何かが覆って、天気とは正反対だった。
それでも、これで楽になれるのだからと、一息ついて再び歩き始めようとした所、ガサガサという音が聞こえて、ヤスオの足はそのまま動かなかった。
どうするか迷った挙句、その場で立ち止まっている事にした。
ヤスオがそのまま立っていると、一人の少女が杖で辺りを確認しながら歩いてくるのが見えた。
真っ直ぐ見つめているが、ヤスオはすぐに目が見えないか、不自由なのだと気付いた。
ヤスオの前まで少女が近付いてきた所で、「お嬢さん、こんな所でどうしたの?」とヤスオから声をかけた。
少女の体はビックリして跳ね上がったが、直ぐに「えっと、あの」と声を発した。
ヤスオは自分から近付くから動かないでくれと少女に言い、ゆっくりと近付いた。
少女は自分の体に誰かが近付いてくる気配は分かるが、体を動かせない為、じっとして声の主が自分にもう一度声をかけるか、触れてくるかを待った。
「私は、タナカヤスオと言います、あなたは?」
「私は、アヤです」
「あやちゃんって言うんだね、どうしたの?こんな所で」
「実は、ここに呼ばれた感じがしたんです、ここは、樹海で合ってますか?」
「…あってるよ、おじさんも実は、ここに用があって来たんだ」
「そうだったんですか、おじさんは、今、どこにいますか?私は目が見えなくて、おじさんがどこにいるか、イマイチ分かりません」
そう、アヤという少女に言われ、ヤスオはアヤの右手をそっと掴み、右側にいると伝えた。
アヤもヤスオの手を左手でそっと掴んだ。
「えっと、たなか…さんで合ってますか?」
「合ってるよ、どうした?」
「私は、家出してきました、たなかさんは?」
「私もだよ」
「ここへ来た理由を、聞いてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫、おじさんはね、死にたくてここへ来たんだ」
「そうでしたか」
「あやちゃんは、ここへ呼ばれたと言っていたね、一人で来たのかい?」
「はい、途中からタクシーというものに乗って来ました」
「そうか」
ヤスオは辺りを見渡した。
こんな所で、目の見えない少女に出会うとは…。
自分は死にに来たはずなのに、少女と出会ってそれどころじゃなくなってしまった。
「あやちゃん、おじさんと別の場所でゆっくり話そうか」
「私はここにいます、ここにいさせて下さい」
そう、アヤが言うので、ヤスオはアヤに「二人でゆっくりと、座れる場所に座って話さないか?君がここにいたいなら、無理強いはしない」と言い、アヤもそれならと、ヤスオについて、少し場所を移動することにした。
二人は多少、広くなっている場所に二人並んで座り、自分達の人生について簡単に喋った。
お互いがお互い、目的は一緒だったと気付き、二人は少し黙って空を見上げた。
アヤはどこに何があるのか分からないが、木々から漏れる少しの木漏れ日を感じていた。
それは、ほんのり暖かかいものだと、体から伝わってきた。
ヤスオも同じく木漏れ日を感じていた。
死ぬ気が失せて、どうするか迷っていた。
その時、アヤはふと「光の世界へ行きたい」と言い出した。
何を言っているのか分からなかったが、ヤスオは「おじさんと一緒に、この樹海を出ようか」と声をかけた。
アヤは「はい、そうしたいです」とだけ告げ、二人は立ち上がり、ヤスオの腕にアヤがつかまり、二人でここではないどこかを目指した。
そうして樹海を出た二人は、現在、行方不明となっている。
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