1話 事件の経緯
オーガやゴブリンの魔物退治を生業とする''討魔衆''。
かつては東の王国で隠密集団として活動していたが、王国が反乱で崩壊すると同時に失脚。
生き残りの者が海を渡り遥か西の地で再興した。
討魔衆は西の地で一番儲かる冒険者稼業を生業としてでかくなった。
幼き頃から情け容赦ない英才教育を受け下忍一人で10人の騎士と値するとうたわれた戦闘集団。
そんな環境の為か厳しい上下関係、厳粛な主従関係そして絶対的な成果主義の弱肉強食の世界であった。
''下は奴、中で人、上は貴''という退魔の格言通り上忍は文字通り貴族以上の高待遇を受けており討魔の里にいるくノ一を側に置きハーレムにする夢のような生活。
獣好きな奴は獣の血を引く獣人を。
小柄好きならばハーフリンクと妖精を。
寝とるのが好きならば身分が下の妻を手篭めにしていた。
「上忍になればお前らも出来るぞ」
白州梯子に座る頭領が正座をする幼い捨て子達に最初に吐いた言葉がそれだ。
その言葉に俺は''その通りだ''と思った。
黒く長い髭を生やした胡散臭い笑みを浮かべる入道の言葉は俺を売った両親よりも信じる事が出来た。
8才の俺は脚に食い込む石を露とも感じず寒い冬の夜でも体を熱く滾らせ食い見るように頭領を見ていた。
厳密に言えば頭領に背後から抱き抱えられた金髪のエルフを。
下は何も付けず
「はぁっ、はぁっ、くっつう」
盛んに息を荒げ激しく揉まれると仰け反り細く長い首を晒し高い喘ぎ声を出す姿に皆前屈みで注視していた。
「いいなぁ」
と皆が羨ましがる声に混じって俺も呟く。
この光景を見た瞬間俺の価値観は百八十度回転していた。
あの容姿端麗、長老長寿で神に近いと呼ばれる高位種族のエルフを。
膨大な魔力を誇り村で''虫ケラ''とせせら笑い俺を泥に突き飛ばし高笑いをしたあの傲岸なエルフを手篭めにしている様は滑稽で羨ましかった。
「ほれほれこれがいいんじゃろう、ほれ」
「は、はい。あっ、んっ、やぁっん」
エルフの胸の形が自在に変化し快楽で身悶える姿は精通もしていない幼子を飢えたケダモノへ容易に変える事は十分だった。
''俺もいつか''と決意を固め皆エロ
血反吐を吐く訓練を5年間耐え下忍となり魔物の討伐だけではなく敵国のスパイに要人の暗殺などの死線を幾度も潜り抜けてきた。
保身の為に仲間を見殺しいや殺しもした。
幸いな事に魔王率いる軍隊が各地を襲撃、仕事が激増したおかげで功績を順調に積み重ねた俺は比較的早く上忍になれた。
正式な任命は後日であるが使用人付きの屋敷を先んじて与えられた。
☆
俺は顔に冷たさを感じてふと目を覚ました。
目に入った光景は見慣れた物小屋のボロ板ではなく格天井だった、暗闇だがよく見える。
「ああ」とかすかに呟き俺が上忍になった事を思い出す。そして立派な屋敷を貰ったくせに慣れない布団ではなく畳の上で寝たことも。
次に畳の上で寝そべったまま辺りを見回し異常がないかを探す、起きた時に五感を駆使して敵の気配を調べる忍びの習慣だ。
耳をすまして四方八方の様子をうかがう。
南と西側の襖、北側の掛け軸がかかった壁及び東側の障子には物音一つなかった。
天井もだ。
ただ床下からはカタカタっと小さな物音が遠のいて遂には聞こえなくなる。
ネズミだろう、後で駆除をせねば。
遊びに来る陽炎に茶々を入れられたくはない。
だがここで自身に違和感を感じた。
暗闇だというのに良く見える事に。
横目で障子を見ると光は微かしか差してこない、新月だからそれは納得出来るが部屋の隅々まで見えるのだ。
掛け軸の松の絵も細部までありありと。
夜目に適した忍びといえど暗闇の中ではボヤけた輪郭しか見えぬはずなのに。
「どうなってんだ」
俺は起き上がり胡座をかくと冷たさを感じた箇所、つまり唇に手を当てる。すると濡れていた。
心なしか喉もスッキリとしており冷たい飲み物を飲んだ爽快感があった。
総身にサッと鳥肌が立った。
「誰かに盛られたのか」
そんな筈はない。
屋敷には必要以上の見張りがいる、そして罠も仕掛けている。
例え上忍でも侵入は困難だ。
鼠一匹入ることも不可能な鉄壁だというのに俺は安心できず焦燥した。
心臓が早く脈打ち息苦しく感じなりながらそれを発見した。
羽毛布団の枕元に茶色い徳利。
俺が置いた記憶はないが、中身に何が入っているのかは討魔の忍びなら誰でも知っていた。
無理やり心臓の心拍数を過剰に高める強心剤の一種、討魔が誇る最高で安価な毒''カゲロウ''
・・・ヤバい、盛られた!
「見張りはどうした!」
俺は立ち上がり感情のまま怒声を発した。
カゲロウか怒りの為か体が熱くなるのを感じた。
時計が指す時刻は4時半、つまり俺の寿命は明日の4時半までとなった。
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