第15話 久しぶりに会う親友

「久しぶり、敦音あつと


 学食に俺は、眼鏡をかけた冴えない顔の男といた。

 同い年で学部は違う。

 1年の時に大学の説明会、ガイダンスで隣の席にいて、その後俺から声をかけて少し話したら、いつの間にか仲良くなっていた。

 目はキリッとしているが、雰囲気はほわんと優しさが滲み出ている。

 高身長でスラッとしているから羨ましい限りだ。

 ちょっと頼り無さそうだが、いざって時に頼りになるのかも。


結唯ゆい、お前どこ行ってたんだよ?」

「ん?言ってなかったか。実習先に居たんだよ」


 彼の名前は、平幡ひらはた結唯。

 実習先、というのは、教育現場のことを指す。

 彼は教育学部の2年生なのだ。


「へぇー」

「迷走はまだしているし、実習先では失敗ばかりで、口下手だから教え方が大丈夫だったか不安でね」

「勉強を教えるのは、分かりやすいとは思うけど?」

「子供には伝わらない事だってあるよ。いろんな子が居るんだから」


 苦労してきたんだな。お疲れさん。


「奢るよ、それ」


 俺が奢ると言って指差したのは、結唯が食べていたワカメラーメン。

 これくらいしか、出来ないが許してくれ。


「ありがとう」

「次も頑張れ」

「うん」


 美味しそうにワカメラーメンを食べる結唯の様子を見守るのであった。

 この後、俺と結唯はカラオケに向かった。



「たくさん歌ったー!」

「気分が良いな」


 男2人、フリータイムで、1人10曲は歌った気がした。


「さて、相談ってのは?」


 そう、俺は結唯に相談をしたくて、ついでにカラオケに行こうと誘ったわけだ。

 静かな場所でも良かったが、誰かに会うとなると嫌なんでここにした。


「お前の両親、というか、親父さんの話を、もう1度聞かせてくれよ」

「あぁ、あの話ね」


 結唯の親父さん、高校の時に大恋愛をしたとか。

 前に聞いた時は、さつきの事が好きだった時で、結唯に恋愛相談をしたら、実はさって感じで聞いたのだ。

 初めて聞いた時は、切なく、儚く、泣けてきた。

 結唯の親父さんが高校生の時の恋の話。

 相手の女の子は、今はこの世にはいない。

 恋愛って、こんなに純粋になる事があるのかと、衝撃的だった。

 想い想われが、どれだけ幸せかー…考えさせられた。


「…て感じでした」


 重く話しはせず、淡々と語られた。


「何でまたこの話を聞きたくなったの?」


 俺の目を射抜くような、今にも心の内を見透かすのかと思うくらいの、鋭い視線にビビる。


「新しい恋が、始まったというか」


 言葉を濁しそうになるが、正直に言った。


「そうなんだ!」


 驚いた顔の結唯。


「誰?どんな人?」


 聞くと思った。

 名前をふせて、かつ、個人情報に当たらない程度に話した。


「ふーん、なるほどね」


 ニヤニヤするな、恥ずかしいだろう。

 結唯はアイスコーヒーを一口飲む。


「上手くいくと良いね」


 だと良いけどな。


「敦音なら大丈夫」

「何が大丈夫なんだよ」

「僕とは違って男らしさがあるし」

「いやいや」

「僕は冴えない頼りない、だから」


 ガクッと肩を落とす結唯。


「お前、優しいだろう」

「優しさだけじゃダメ」


 だんだん暗くなる親友に俺は慌てて「歌え」と言うと、結唯は「そうだね」と言って、大きな声を出さないと歌えない勢いのある曲を歌った。

 歌い終える頃には、スッキリとした顔になり「あー!僕も、良い人に会えないかなー!」と叫んだのだった。


「じゃあ、また!」

「おう、ありがとな!」


 現地解散した。



 最寄りのバス停で降りた。


「さて、買い物して帰るか」


 清瀬さん、プリン好きかな?

 買い物ついでにプリンを買って帰り、清瀬さんの部屋をピンポン。


「あら、棚部たなべ君!」


 明るく出迎えてくれた。


「これ、差し入れです」

「ん?プリンじゃない♪」


 テンションが上がった。


「ありがとう!」

「いえいえ」

「上がってく?」

「いや、今日は課題あるんで」

「そっか、分かった」

「んじゃ、また」

「うん、またね」


 静かに清瀬さんは扉を閉めた。

 喜んでもらえて良かった。

 俺も自分の部屋に入った。

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