お母さんになった大泥棒 3/5
来客たちが帰った後で、オレはサーラと一緒に掃除を始める。
掃除をしながら考えた……大問題が二つある。
サーラに大泥棒をさせることと、サーラの生活をちゃんと確保することだ。
(ここは広い屋敷だし、サーラのために使用人を雇って……いやそれよりも、親がいるよなぁ……)
「サーラ。あなた、お父さんは死んだって言っていたけれど、お母さんはどこにいるの?」
そう聞けば、サーラはオレを指差して言う。
「サーラのお母さんは、お母さんだよ!」
「だから、私は……!」
(あぁ、これはもうダメだな……何回違うと言ったって、サーラはオレをお母さんだと言い張るな。)
「サーラ。あなたを産んだ、あなたの最初のお母さんはどこにいるの?」
「最初のお母さん? ――うんとね、サーラが小さい頃、お父さんとケンカして出て行ったって!」
「なら、生きているってことね。」
(ふ〜ん。なら、探してみるか!)
――屋敷は酷い有様だった。
綺麗好きのオレ様には耐えられねえ……特に、サーラの遊び部屋が酷い!
どうやら、サーラは絵を描くのが好きらしく、その部屋には紙や絵具が散らかっていた。
(だが、こりゃあ……)
そんな部屋の片付けをしながら、紙に描かれた絵を見ると、オレはつい口に出た。
「サーラ、あなた良い絵を描くわね。」
「ほんとー!? お母さん!」
「ほー、ほっほ、ほっほ! 数々の名画を盗んできた私が言うのよ。間違いはありませんわ!」
「盗みはダメー!」
サーラの絵はなかなかのものだった。
そして、サーラには盗みはダメだという分別はあるらしい。
これは大泥棒どころか、盗みをさせることさえ難しいかもしれない。
だが、オレは一つ作戦を思いついたのだ。
「――お母さん、これも美味しい!
お料理、やっぱり上手だね!」
掃除の後は晩飯の材料を買いにと、二人で外に出掛けた。
それから帰って来てオレが作った晩飯を、サーラは喜んでたいらげる。
「――お母さん、洗い物手伝うよ!」
サーラは何でも手伝った。
素直で明るく、可愛い子だ……オレも娘が出来たら、こんな子が良いなと思う。
そんな可愛いサーラを寝かしつけた後、オレは屋敷の一室に籠る。
――そしてオレは、一人で喋り出した。
「ほー、ほっほ、ほっほ。
可愛いあの子に盗みをさせるなんて、私も本意ではありません。――しかーしっ! 私が元の体に戻るための大泥棒、やってもらいましょう!」
オレは作戦を一人で語る。
「サーラには、玉座に座ってもらいます。
玉座っ! 座るだけでも畏れ多い王の椅子! あの子には、まだその価値がわからないでしょう。でも、玉座に座るなんて、私も驚く大泥棒です!」
オレはそう、上機嫌で語ったのだ。
デカい仕事だが、やってやろう……問題は、どうやって王宮に入るかだ。
屋敷の周りの人間に聞いてみれば、サーラはやはり貴族の娘で間違いないらしい。
領地もなく財産は屋敷だけらしいが、父親から爵位を受け継ぐのは一人娘のサーラのようだ。
貴族なら会議に出席して、その時に王に会えるかもしれない……だがサーラは子供、しかも、会議じゃ玉座は遠い。――この作戦じゃあ、ダメだ。
オレは、サーラの絵を利用しようと考えた。
――今の王は、絵が好きで有名だ。
絵描きどもをよく、王宮に招き入れていると聞いている。
なら、子供のサーラが素晴らしい絵を描くと評判になったなら、絵の好きな王は会いたくなるのではないだろうか?
貴族の子供だし、王と会うのはそう難しい話でも無いだろう。
サーラが王に謁見するその場面で、母親としてついて行ったオレ様がうまくサーラを誘導する。
そして、玉座へと座らせる……
「まあ、子供ということで許してもらえることでしょう……万が一捕まるなんてことになったら、私がサーラを連れて逃げればいいわ!
ほー、ほっほ、ほっほ! わたしは大泥棒のドロンボー! この私に不可能は無いのです!」
そんな作戦を立てて、サーラに玉座を盗ませる、大泥棒としての仕事が始まったのだ!
――次の日から、オレは作戦を進めていく。
サーラには良い絵を描いて評判になってもらい、かつ、良い貴族の娘になって、評判の娘になってもらわなければならない。
オレは、好きなことはとことんやらせる方針だ。
オレは絵描きを雇って、まずはサーラに絵の勉強をさせた。
「サーラ、今日から絵の先生が来ますよ。しっかりと教えてもらいなさい!」
「え? お母さん、私に絵の勉強をさせてくれるの? わーい! ありがとう、お母さん!」
オレは、金のことはしっかり考えさせる方針だ。
(泥棒になりたての若い頃には、オレも金にだいぶ苦労したからなぁ。)
「新しい絵具が欲しいの、お母さん。
新しい筆が欲しいの、お母さん。」
「節約をしっかりしなさい! こ渡したお小遣いの中で、上手にやり繰りをしなさい! お金はとても大事なものよ! 大切にしなさい!」
「は〜い、お母さん……」
そうやって、しっかりと叱りつける。
だがどうしても、小遣いの中ではうまくやれない時もある……そういう時は家事の手伝いでもさせて、そこで小遣いをやればいい。
「お母さん、お洗濯するの手伝うよ!
お母さん、お掃除するの手伝うよ!
お母さん、洗い物するの手伝うよ!」
そう考えていたが、サーラは良い子で、元から家事は、いつだって手伝ってくれていた。
仕方なく、オレはこっそりとサーラの欲しいものを買ってやる。
「あ! 新しい絵の具だ! お母さん、買ってきてくれたんだね! ありがとう、お母さん!」
結局、すぐにばれてしまうのだが……
オレは、必要なことはちゃんとやらせる方針だ。
評判の娘になるように、貴族らしいマナーを教師を雇ってサーラに教えさせる。
これには、さすがのサーラも嫌がった。
そこで、俺も一緒に学ぶことにする。
貴族の屋敷に忍び込むのに、オレにも多少の心得はあったが、まぁ再勉強だ。
(苦労は一緒に分け合うのが一番だしな。)
「私も一緒に勉強しますよ。
先生、よろしくお願いしますね。」
「お母さんも一緒にお勉強するの?
なら、サーラも頑張るー!」
料理を作ってもらうのに、シェフも雇った。
――だが、一日で辞めさせた。
作る料理は肉料理ばかり……貴族ってのはこんなもんばかり食っているらしい。
(こんなんじゃだめだ! 健康に育つには、野菜が一番! 美容にも野菜が一番だ!)
結局、料理も家事もオレがやった。
「やっぱり、お母さんの野菜のポタージュ、美味しいね!」
「ほー、ほっほ、ほっほ! 当たり前です!
私は盗みもこの国一番、ポタージュもこの国一番です!」
「盗みはダメー! でもサーラ、どんなお料理より、お母さんのお料理が大好きだよ!」
オレは外で、サーラの評判を広めた。
サーラの描いた絵の自慢、サーラが気品ある貴族の娘だという自慢、サーラがいかに可愛いか……
「ほー、ほっほ、ほっほ! うちのサーラは本当に可愛くて、国一番の娘ですわよ!」
この、サーラの評判を広める仕事が、俺の中で一番楽しかった。(――なんでだろう?)
それから三ヶ月……
絵描きの美少女、サーラの噂は大きく広がった。
ついには王の耳にまで届いたらしく、オレの目論見通り、サーラは王宮へと招待されることになったのだ。
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