マイノリティの未来
「多様性を認めよう」などと、もっともらしく訴えてはいるが、それは君たちマイノリティの、その本能に導かれた生存戦略に過ぎない。
「自分を、自分たちを認めて欲しい!」「私はここにいる!」「私を助けてくれ!」と……
そんな風に、SOSを出しているだけなのだ。
ならば、ほかのマイノリティたちは黙って見ているのが正解だろう。
君たちは確かに、自己の矛盾さえも把握し、矛盾に満ちたこの世界の本当の姿を捉えている。
一元的な価値観がもたらすのは誤った視点で、その誤った視点で世界を動かせば、やがて世界は崩壊に向かうであろうことを、君たちは知っている。
しかし、君たちが導こうとしている……
互いが互いを認め合い、互いが互いを助け合う世界というのは、集団主義の名目の元、結局はマジョリティたちの集団意識の温床となるだろう。
彼らは他を認めず、排他的になるのはご存知の通りだ。
わずかでも彼らの琴線に触れることがあれば、普段は姿を見せない者たちが、わらわらと、わらわらと湧いてくる。
彼らは世界も、自分自身すらも把握しておらず、最初は何かしらの理由をつけて、君たちの前に現れるだろう。
そしてそこで君たちが返す言葉を誤れば、彼らはその時点では言語化できていない、君たちを追い出すための言葉に気づくことになる。
彼らは、世界の中の矛盾を受け入れない。
彼らは、自己の中の矛盾を受け入れない。
だから彼らは他を否定することで、強制的に自分たちを肯定しようとする。
――その機会を常に、探しているのだ。
もし一言、彼らが君たちを否定することで、自分たちを肯定できる言葉を見つけたのならば、そこから一人、二人、三人と……
今まで姿を見せなかった者たちが次々と現れて、君たちを排除することで、自分たちの安寧を得ることに夢中になってゆくだろう。
だから君たちマイノリティが、多様性を認めて欲しいと……
「自分を、自分たちを認めて欲しい!」「私はここにいる!」「私を助けてくれ!」と……
そんな風にSOSを出したとしても、ほかのマイノリティたちは黙って見ているのが正解なのだ。
君たちの恐れる、マジョリティたちの集団意識……
自分で世界を把握せず、自分で自分を把握せず、ただ他人の考えに、ただ他人の行動に、否定か肯定かを叫んで同調することで膨れ上がる実態の無い怪物は、必ず、君たちマイノリティを殺しにかかる。
上に立つ者を廃し、互いが互いを認め合い、助け合う社会など実現しない。
マジョリティが実権を握った時、それはフランス革命から続く、考えを持たない人間が、ただ自分たちとは違う少数の人間を残虐に殺すことで何かを成したと勘違いを得る、無法な世界が始まるのだ。
ヒトラーが、スターリンが、毛沢東が……
一致団結、共同体の旗を掲げた人類が、そんな彼らが築いてきた歴史を振り返れば、その結果を疑うのは愚かだと言える。
ネズミはその数が増え過ぎた時、同性愛のつがいを増やし、殺し合いを始め、または集団で破滅に向かって走り出し……
――そうして、その数を減らすそうだ。
ヒトは識字率が上がれば出生率が下がり、知能が上がれば孤独を愛するようになる。
マイノリティの君たちがマジョリティに殺されるその運命は、増えすぎたヒトがその数を減らすための、――その本能に導かれた、生存戦略のもたらす結果であるに過ぎないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます