第12話 二つの会議

 ギルドの大広間にて、私は正座をさせられていた。

 目の前にアリスが立ちはだかるように仁王立ちをしていて、その後ろに他の仲間たちが眺めるようになっていた。

 なぜか。

 理由はわかっている。

 理由はわかっているからこそ、私は行儀よく、そして大人しく座っていた。


「で? なんで今までそんなこと黙ってたんですか?」

「いや……その……」

 アリスは、私がギルドから無理難題とも言えるようなクエストを今まで受けさせられたことについて詰められていた。


「ギルドからそんな依頼なんて聞いたことないし、リーベさんがそんなことをやっていたなんて知らなかったですよ!」

「いや……ハハハ……」

 愛想笑いが気に食わなかったのか、アリスから「ちゃんとしなさい!」と言われてしまった。


(ギルドに、人が全然いなくて良かった……こんなとこ見られたら恥ずかしくてどうにかなりそう……テールがいたらもう……)

 と、この状況の中で少し安堵している自分がいた。


「……なんか安心してません?」

 アリスからそう言われた、途端体がブルッと震えあがった。心を読まれた気がして、やっぱりアリスはそういった能力があるんじゃないかって疑った。


「でもギルドから直々に依頼を出すって凄いことですね……」

 フィシが感慨深そうに目を閉じて言った。

 他の街では知らないが、この街のギルドでは冒険者がクエストを受ける時は中にある掲示板から自分に合ったクエストを選ぶか、自分が受けてみたいクエストを選んでギルドに受付所に依頼する形となっている。だからギルドから冒険者にクエストを依頼をするというのはこの街では異例に近いものだったのだ。


 「はぁ~」とアリスたちはため息をついた。しかしコハクは声を出さずにみんな同じような表情をしていた。

「……相変わらず凄い強さですね」

 珍しくグリュが愛想笑いというか苦笑いをしていた。あのいつも温厚なグリュが苦笑いをしたところを見て少し心が痛んだ。


「まぁ、なんというか、リーベさんらしいというか……」

「アリス……」

「いいですか! 今後、ギルドから依頼された時は私たちにも相談してください!」

「え、でも、みんな危ないかもよ? 危険な目に合わせるわけには……」

「冒険者はいつも危険と隣り合わせでしょ!?」

「うぅ……はい」

 強引にアリスに返事させられ、今後はアリスたちにも相談して決めるようになった。一応言っておくが、私はアリスたちのパーティのメンバーじゃない。なので自分が受けるクエストを自分が引き受けるという形を取っている私にとって決して可笑しい話ではないのだが、今後はアリスたちにも相談することになった。それでも自分の中でいい仲間を持ったんだな、って満足している自分もいた。


「はい、というわけで、作戦会議を行いま~す!」

 みんなからの説教を受けた後、ルナが手を叩いて会議を始めた。それぞれが丸となってルナの方に視線を向けた。テールを救出しに行くことについて、みんなで話し合う感じだ。


「まずは、『貪欲の宝玉』についての情報です」

 そう言ってルナは複数枚の紙を取り出した。紙をどれも綺麗に折り目があるのがわかり、ルナが大事に持っていたことがわかる。ルナはその紙を頼りに読み上げ始めた。


「貪欲の宝玉は三日後の正午に魔族を捕らえたことを大々的にやる公演会をこのギルドの前の広場で行うらしいって」

 三日後——。

 今日から三日後に動き出すということに自分の中で緊張感が走った。

 魔人族。

 この言葉に私は引っかかった。貪欲の宝玉が捕えた魔族である。バリューだって冒険者だ。クエストを受けたり、冒険していく中で魔族なんて数えきれないほど倒して捕えてきたはずだ。でもこの街のギルドの広場で態々、公演するってことは普通の魔族ではないはず——。


「……ルナ、その魔族って」

 ルナは息を一度飲み、事実を伝える。


「はい、恐らくテール君のことです」

 三日後、テールがこの場所で魔族だということがバレてしまう。


「やばいじゃん! 早く助けに行かないと!」

 アリスは焦ってしまい、私たちにすぐに準備をするように急かした。


「待って、アリス居場所もわからない状態で動いても意味ないよ……」

「でも……」

 それでもアリスは言うことを聞かない様子だった。腕を大きく振りながら、それでも今すぐ行くべきだと主張する。


「でもじゃな~い。こういう時こそ、準備が大切なことくらいアリスならわかってることでしょう?」

「……うん、そうだね、ごめん」

 ルナに説得によって、アリスはやっと落ち着きを取り戻し、冷静な判断になった。


「でも公演になると、その後の影響が怖いかも……」

 フィシは怪訝とした表情をして、左手を口の方に当てて、考え込むようになった。

「フィシ、それってどういうこと?」

 私はそう聞くと、フィシは「あぁ……」と返事をして説明し始めた。


「公演っていうのは自分の意見を他者に共有するものでもあるんだ。そして演者の言葉に対して、聞いた人がその人に賛同したら、みんながその意見に従って、演者に対しての力となる。今回の場合、大々的に公演までするってことは多くの人に目の中に止まって欲しいものがあって、しかもその今回見せるものがテールとなったら、商店街の件も含めてテールのことをこの街の脅威を呼ぶ存在として見られて、バリューがその魔族を捕らえた英雄として見られる可能性が高い」

「えってことは……テールが悪者として見られるかもしれないってこと?」

「……そうですね、加えてリーベさんも危なくなるかもしれません」

 フィシは私の方をチラっと私の方を見て、話を続ける。


「リーベさんはギルドからテール君の監視役として命じられて、この街全体に知れ渡っています。その監視役が不祥事を起こした原因を責任を負う立場としてみんなから反感を買うことになるかもしれません」

「ねぇ、それってすっごいピンチじゃない?」

「うん……」

「やばいじゃん! え、じゃあこれからどうするの!?」

 再びアリスが慌て始めた。私はアリスの所に行き、「アリス」と名前を呼び両肩に少し押さえつけるように手を置いた。


「私は大丈夫だから」

 一声そう告げた。私とアリスの目と目が合う。距離が近い、アリスの息がここまで届いてくるのがわかる。

「リーベさん」

 私はアリスが落ち着いたのを確認して、肩から手を離した。


「ごめんなさい。また私……」

「あ、いや、大丈夫だから! 気持ちは受け取ったから!」

 アリスのことを慰めた後、会議に戻った。


「でもこの中でどうしたら……」

「……」ギュッ

「……コハクそれはダメだよ」

 コハクは目を光らせて、拳を握り締めていた。恐らく、先制攻撃をしようとの案だったのだが、ルナによって却下された。少し残念そうに両耳をペタンと垂らした。


「……ねぇ、みんな」

 声の主はフィシだった。みんなのことを呼び留めたことを確認した後に、フィシは話を始めた。


「一つ案があるんですが……」


◆◆◆


 あれから、数日が経ちやがて公演決行日の前日になった。

 俺はこの街から少し外れた洞窟にてエレナたちと休息を取ることにした。


「ボス、明日の準備ですが、滞りなく出来ました」

「おう、お疲れ」

「別にあの街の宿でも良かったんじゃないですか?」

「いや、街の人に勘付かれると不味い……だから今日はここで休む必要がある」

 俺がエレナに説明すると、エレナは明らかにわかるようにため息をついて文句でも言いたそうな顔をして言う。


「変なところ真面目だから困る」

「あぁ~!? なんて言った!? お前?」

 エレナはそっぽを向いて、こちらを向こうとしなかった。


「意外と大変だったんだぞ! リーベ・ワシントンとのやり取りの後、ここまで連れてこさせたの――」

「……でもあのベット気持ち良かったです」

 俺は頭を掻いて、怒りを抑えることに努めた。エレナの言っていることもわかるのだった。俺も宿泊している時、あの街の宿や食べ物が気に入っていった自分がいたからだ。


「まぁまぁ、お前たちこの辺にしとけ! 明日はボスの晴れ舞台だ!」

「そうよ~明日が最も……熱く……なる日なんだから……」

 そう言ってダマンとネオンが仲介に入った。俺はこれ以上、激化しないようにするためにエレナとの距離を取った。


「…………メグ、いるか?」

 怒りを押さえつけて、まるで仕事に戻るようにしてメグのことを呼んだ。


「はいぃ……! まだ起きてますよ!」

 時間も深夜ということもありながら、少し眠たかったのだろう。妙に大きな声で起床しているという報告をしてきた。


「…………まだ、あのガキはいるか?」

「はいぃ……! ずっとここにいましたよ! えぇ! それはその通りで! すみません! すみません!」

「落ち着け」

 俺はメグに淡々と言った後、奥の方に目をやった。


「……」

 メグの奥の方で、両手と首を縛られて檻の中で身動きが取れずにいるソリ・テールがいた。意外にも態度が大人しかった。リーベ・ワシントンとのやり取りの後、逃げる機会はたくさんあったのにも関わらず、反抗してくることも一切なく俺の金属製で作った檻の方に指を差して「この檻へ入れ」と言ったらすぐに入った。


 ――その光景を見て少し恐怖を感じた自分がいた。


「……お前、俺たちから逃げたり、俺たちに反抗したりしないのか?」

 自分でも、変な質問だと思った。しかし聞かずにはいられなかった。

 俺はあの街に侵略したような形で入り、商店街での出来事を始め、ここまでに至るまで計画の通り行った。このガキやリーベ・ワシントンからの奇襲なども前提に考えて練っていた。すべてが上手くいったのに俺はどこか腑に落ちないところがあった。


 ――今のこいつに同情している。そんな自分がいた気がした。


「……僕が魔人族だから、、、リーベさんたちに迷惑をかけてしまうので」

 檻の中とこの状況を裏切るようにその魔人族は少し笑みを見せた。目の光が失ってはいないが、どこか寂しさを感じさせるような雰囲気がそこにはあった。


「……そうか」

「ボス、サイテーですね。心底、見損ないました」

「あぁ!? なんだお前!?」

 俺はエレナにまた激怒して、再び喧嘩を始める。

 エレナとの口喧嘩をしている中で月夜に照らさせて白髪と目が薄っすらと光を帯びているソリ・テールが目に入った。

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