第30話 彼女とお勉強

「この鮭の塩焼きおいしい………」

「お口に合ったようで嬉しいです」


思わず出てしまった言葉に依織が笑顔で反応してくれる。

朝からこのご飯にこの笑顔………最高だな……

前までの一人暮らしでは決して味わう事の無かった幸せを感じてしまう。

今日は夏休みの宿題をこなそうと考えているが、朝から元気を貰ったので頑張れそうだ。

依織の宿題も俺がしっかりとサポートして絶対に提出できる様にしてあげたい。

特に取り柄のない俺だが勉強はそこそこ自信があるのできっと依織の役に立てるはずだ。

朝ご飯を食べ終わってから早速宿題に取りかかることにする。


「それじゃあ順番にやっていこうか。まずは英語の課題だけど、分からないところがあったら遠慮なく聞いてくれ。俺も全部わかる訳じゃ無いけど大体は教える事ができると思うから」

「ありがとうございます。睦月さんがいてくれて本当に良かった」


彼女のこの言葉のたびに心に痛みが走るが、依織がこの言葉を言ってくれる以上精一杯支えてあげたい。

仮に彼女の知識や学力が記憶と共に失われて、高校入学前の学力に戻っていたとしたら一問も解けないかもしれない。そうだとすれば俺が少しでも早く問題を解いて教えてあげなければならない。

そこからは、いつも以上に集中して課題を解いていった。

いつもならダラダラしたり、集中力が途切れることもしばしばあるが、今日は最大限集中してどんどん先に進む。

集中し過ぎて気がつくと既に一時間以上が経過してしまっていた。

まずい………

この一時間依織が一度も質問してきていない………

ほったらかしてしまった。

あまりの失態に目眩がしながら恐る恐る依織の方に顔を向けるが、依織は課題をスラスラと解いていた。


「え………」


驚いて依織の課題を覗き込んで見るが、なんと俺よりも進んでいる。

こんな事あるのか?


「依織………問題解けるの?」

「はい。問題を見てみたら普通に解けます。習った記憶は無いのですが、問題の答えは分かるみたいです」

「そうなんだ」


記憶は無いけど知識としては残っているという事だろうか?

他の教科もやってみなければ分からないが、これは俺の予想に反してすごくいい事だ。

勉強が問題ないのであれば、高校の授業にも普通についていくことが出来る。

それだけでも大幅に依織の負担が減るはずだ。

それにしても依織のペースはすごいな。俺的には目一杯集中してやってこれなのに、依織のペースはそれを遥かに上回っている。

よく考えると記憶をなくす前の彼女が学年でも常に五番以内の成績を残していたはずだ。

勉強の知識が失われていないのであればこのぐらいは当然なのかもしれない。

ただ、俺が教えるなんて偉そうな事を言ってしまったが、これではどう考えても俺が教わる方だ。


「……………」


恥ずかしい。学校でもトップクラスの才女である依織に向かって、


「分からないところがあったら遠慮なく聞いてくれ」


って………いくら勉強の知識も失われていると思い込んでいたとはいえ恥ずかしすぎる……。

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