14.ハイドラの決意
「コタローのバカ。ないもわかってない。私がどんな思いでいるのか……」
自室のベッドの上でハイドラは荒れていた。
頭ごなしに叱られて腹が立つ。
自分を子ども扱いするところが許せない。
私が冒険者になって誰が困るというのか。
欲しいものをねだるのではなく自分で取りに行くと言っているのだ。
なにを怒ることがあるというのか。
「私がなにをしようが私の勝手でしょ」
これも全部私が子どもだからだ。
子どもだというだけで侮られ、対等には見られないのだ。
ハイドラはベッドを降りた。
こうなったらなんとしてもダンジョンを攻略してやる。
それしかコタローを見返す方法はない。
ダンジョンを攻略すれば彼も見直すに違いない。
頭を下げて自分が間違っていたとわびるはずだ。
そして秘薬を手に入れて私が大人になるまで眠ってもらうんだ。
次起きるときは自分が大人の姿になったときだ。
世界一美しい女をお嫁さんにできるんだ。彼は世界一の幸せ者だ。
「待ってなさいよ。地面に頭がめり込むほど謝ってもらうんだから」
ハイドラはさっそくティガの部屋に向かった。
暗くて冷たい廊下をおっかなびっくり進み音を立てないようにティガの部屋の扉を開ける。
前にお化けは音に反応すると絵本で読んだからだ。
部屋の内装はみんな同じだ。
勉強机に小さな本棚とタンス。それからシングルのベッド。
そのベッドにはなぜかシュシュミラが寝そべっていた。
一人では眠れないシュシュミラは仕方なくティガの部屋に押し入ったのだ。
「眠れない。寝たいのに眠れない。目を閉じても眠気がこない……。やっぱりコタローと一緒じゃなきゃ眠れないんだ」
呪詛のような言葉を漏らしながら天井をじっと見つめるシュシュミラ。
「床つめたい。寒い」
ベッドも掛け布団も取り上げられて床に転がされているティガ。
こちらもプルプル震えて眠れない様子だった。
「起きなさい。今からダンジョン行くわよ」
二人の虚ろな視線がハイドラに集まる。
「なに言ってるのさ。だめって言われたじゃん」
「そうだぜ。コタローもっと怒るよ。オレは行かないぞ」
渋る二人。
「あんたたち悔しくないの? やってもいない内から無理だって言われて。このままだと冒険者の登録も消されるのよ?」
「それは、悔しいけど。でも大人だって嘘ついて冒険者登録したのは悪いことだったと思うし」
「ボクはイヤだよ。またコタロー怒らせちゃったら明日も一緒に寝てくれないじゃん。そうしたらボクはいつ眠れるのさ」
シュシュミラはティガの枕を抱きしめて抗議する。
「明日もなにも、あんたしばらくは一緒に寝てもらえないわよ。あいつは一度怒ったら後を引くの。今日の感じだと、一週間は無理ね」
シュシュミラが両目を見開く。
「そんなに!? 一晩だってもう限界なのに。そんな長い間眠れなかったらボク死んじゃうよ」
食いついた。ハイドラは内心勝ちを確信した。
「それなら方法は一つよ。私たちが冒険者できるってことを証明するの。そうすればあいつから謝ってくるし、一緒に寝てくれるようになるわ」
「おお! ハイドラ天才か!」
ベッドから立ち上がるシュシュミラ。
「今から行くわよ。明日になったら冒険者登録は削除されちゃうんだから。今晩中にダンジョンを攻略してやるのよ」
「え、いやオレは明日改めて話してみるよ。ちゃんと話せばコタローも冒険者になるの分かってくれると思うし……」
「黙んなさい。一蓮托生。あんたも来るのよ」
冷静に断るティガの腹にボディブローを入れて黙らせるハイドラ。
ハイドラとシュシュミラは意気込んで部屋を出る。
ティガはハイドラに引きづられて自室を後にした。
「見てなさい。絶対ダンジョン攻略してやるんだから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます