6.ハイドラとレアドロップアイテム


 「コタローは見つからなかったけど、ハイドラはいたぞ。とりあえず合流しようぜ」

 シュシュミラの手を引いて二人は中心街へと向かう。


 「そういえばハイドラのやつ子どもに戻ってたけど、飴の効果って短いのか?」

 「半日は大丈夫だと思うけど、気の持ちようなとこもあるかも。気が抜けると解除されることもある」

 「ふーん」

 「個人差はあるよ。ティガは泣くともとに戻った」

 「泣いてねえし」

 「それは無理があるでしょ。ともかくなにで気が抜けるかは本人次第。なんかあったんじゃない?」


 ほどなくしてハイドラの姿が見えた。

 屋根の上から見た場所から動いていないようだった。


 「ハイドラ? どうかしたのか?」

 うつむいたままハイドラは答えない。


 「魔法の飴ならまだあるぜ。すぐ泣くからって余分にいくつかもらってんだ。泣いてねえけどな」

 飴を差し出すがエルフの少女は受け取ろうとはしなかった。


 「いらない。放っておいて。もう大人にはならない」

 ならない。なれないの間違いではないか。ハイドラは自嘲気味に笑った。

 いつまで立っても子どものまま

 この二人がおじさん、おばさんになる頃になってようやくだ。


 気が遠くなる。なにも考えたくない。


 「コタローは? 会えたの?」

 シュシュミラの遠慮のない物言いに言い返す気力もわかない。

 ハイドラは黙ってコタローの去った方向を指差した。

 

 「あっち? あっちね。行くよティガ」

 シュシュミラがせかせかと歩いていく。

 彼女は彼女で外にいるのが限界だった。

 目的を達成して早く帰りたいのだ。

 

 「ほら、ハイドラも行こうぜ」

 なにかを察してティガが声をかける。返事はない。


 「なにあったか知らねえけど、ここで突っ立っててもしょうがねえだろ」

 動こうとしない。仕方がないので手を引いてシュシュミラの後を追った。


 「あん? そういえばこの先って」

 「知ってるとこ?」

 「冒険者のギルドがあるんだよ」

 「ふーん。コタローはそこへ行ったの?」

 「知らない」

 「もー。どうしちゃったのさ。ハイドラ元気なーい」


 方向はわかっても雑多な中心街だ。

 どこの建物に入ったのか、あるいはどこかの横道に曲がったのか。

 ハイドラはそこまでは確認していなかった。


 そうして件の冒険者ギルドの前を通りかかってティガが足を止めた。


 大通り沿いに立ち並ぶ商店の中にあって、レンガ造りの立派な建物だった。だいぶ  年季が入っており外壁はひび割れていてツタがつたっていた。


 「俺将来は冒険者になるんだ。そのうちここにも世話になるんだ」

 「えーテイガが冒険者? 泣き虫でなれんの?」

 「うっせえな。泣き虫じゃねえし」


 ティガとシュシュミラがじゃれている間、ハイドラはギルドの掲示板に貼りだされているいくつかの依頼表を読むでもなく眺めていた。


 冒険者への依頼は基本的にはダンジョンの攻略であり、もっと言うとダンジョン内でドロップするアイテムを持ち帰ることだ。

 依頼表はモンスター討伐3割、ドロップアイテム納品7割といった割合か。


 ぼんやり見ていただけのハイドラだったが、ひとつの張り紙で視線が止まった。

 それはドロップアイテム納品の依頼だった。


 「ハイドラなに見てるのさ。なになに? この町のダンジョンでボスモンスターの出現を確認。そのモンスターがレアアイテムをドロップするんだってさ。これまでに確認されているのは……、虹色に輝く水晶、空を歩ける靴、どんなものでもふりかければおいしく感じる塩。なにこれ。こんなの欲しい人いるの?」


 「飲んだ者を眠らせて、その間老化を止める秘薬」

 ハイドラが指差したのはレアドロップ一覧のひとつだった。


 「なんだそれ」


 「えっと、対象者を任意の間昏睡状態にできる。その間対象者の代謝は極端に落ち老化の進行を止める。眠らせる時間は単純に薬を飲む量だってさ。コップ半分で1000年は眠ったままだって」


 「え、なんの役に立つんだこんなの?」


 「たとえば未来の世界を見たいとか、今の医学では治らない病気に罹ってる人が治せる未来が来るまで眠って待つとかかな」


 「へー。じゃあ虹色に光る玉は?」

 「知らないけど、領主者様が高く買い取るって」


 「これよ……」

 ハイドラがポツリとこぼす。


 「どれだよ?」

 「虹色の玉? ピカピカが欲しいの?」


 「ちっがうわよ! この薬よ。1000年を眠らせる不老の秘薬! これだわ。さすが私! 願ったものが向こうからやってくる! 私の美貌に世界がひれ伏し仕えるわ。世界の中心は私よ」


 今さっきまで萎れていたのに急に見たことのないテンションで鼻息を荒くする。

 二人はついていけず後ずさる。だがハイドラは逃がさない。

 両手で二人の肩を掴んで声高に命令する。


 「あんたたち。この薬取りにいくわよ」


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