第29話 滑走 - perspective B-4

 今滑走路に吹くすこし右からの風はゆったりと変動しており0.1m/sから0.3m/s程の風速である。主翼の右翼端が少し上下に揺れており、中川は何でこれに気づかなかったんだろう、と思っている。左を見れば、西村が入念に足をストレッチしている。今日はラジオ体操やったし、さっきも走ったんだけどな?


 TF-1は滑走路の端にある。その前方に滑走路が真っ直ぐに伸び、早朝の青空に燦々と輝く太陽の光で影が落ちる。


「じゃあ、もういちど高速滑走をしてみる。少し右からの風がある。中川は翼の水平注意。今度はスタートを十分気をつけて。」

 風上側は責任重大。

「加藤、2本目は100m走っている。でもこの機体はうまくやれば40~50mくらいで浮いてしまうはずなんだ。浮かなかったのは多分若干速度が足りないとか、姿勢の崩れが作用した結果だと思う。プロペラは引いているみたいだけど、もう一踏ん張り踏んでみてくれ」


 西村は今回は遅れない、と声に出さず思った。風はあるかもしれないけどこれくらいだったらサポートの責任範囲。ふと右翼を見ると中川と目が合った。サムアップすると中川もサムアップを返した。


「次はもう一度高速滑走をやります!キャッチ!準備いいですか!」

 滑走路の向こうで手が振り返されるのが見える。

「2時から0.2m/sの風変わらず。加藤、準備良いぞ」

「それじゃ三本目、高速滑走試験。ペラ、回します。3、2、1、Go!」


 TF-1が加速していく。その加速は今日一番の速さだ。ぐんぐんと速度を上げていく。


 榎本は加速する機体を見て身構える。やっぱりちょっと右翼端の上がりが速い?でも中川さんが抑え気味にしているのかな。機体の姿勢は変わらない。機体が加速するに従い両方の主翼がしなり翼端が同じように高くにある。「主翼がたわんだわ」思わず榎本は口にした。

~ ~ ~

 スタートの前サムアップを返した中川は前を向いて集中した。加藤の合図でTF-1がスタートする!走り出す一瞬、西村を見る。いいわ、同じタイミング。右から煽られる傾向への対応は知ってる。最初10秒は私が押さえるわ。

~ ~ ~

 西村はスタートの合図で走り始める。機体に遅れない。加速がさっきより鋭い?でも主翼が順調に頭の上で反っていくのが分かる。翼紐が繰り出される。そして機体速度が西村の走る速度を上回る。スススっと機体が西村の前に出たその瞬間、車輪の音が消えた。ガーと聞こえていた音がフッと途絶えた。


 TF-1は機首をやや右に向けすーっと進んだ。あたかもその場所だけ氷が敷かれているかのように。


 と思った刹那、またガーという車輪の音とともにTF-1は右へ進み始めた。

「減速ー!」

 吉田が叫ぶ。中川も西村も繰り返す。第1層ウィングフォローの二人、石橋と藤井は翼紐をとらえて機体を安定させた。追いついてきた吉田が最後にテールを押さえて停止させる。場所はほとんど第2層の位置だ。


「飛んだね?音消えてた」

 中川は今日飛ばないんじゃないのーととは言わない。でも主翼の取り付け角を下げてるのだから飛ばないでよねー。それって速度出しすぎじゃないの?

「ハアハアそう思います。ちょっと速かったなー」

 西村はとりあえずひと安心している。機体速すぎでしょう・・・


 吉田がリアホイールを指さして言った。

「リアホイールのマウントがずれている。固定の方法に改良がいるようだ。今日はこれ以上は無理だな。もうちょっとやりたい気もするけどこれは撤収だな。それじゃ加藤お疲れ、まずは降りようか?」

「終わりですか?分かりました・・・」


 加藤君はちょっと不満げかな。榎本は加藤の様子を見て思った。私ももうちょっと主翼たわませたいけど、今日のメニューは終わりだからこれでいいと思うよ。


「今日は終了でーす!機体を滑走路端へ移動させまーす」

 中川は大きな声で終了を告げた。


 佐々木は一部始終をカメラに収めていた。今回機体は少し右から煽られていたけど真っ直ぐに走っていった。翼が大きな曲線になっていたわ。そして旧に右を向いたときはびっくりしたけど、飛行機がちょっと浮き上がったてた。びっくりした。ファインダー越しだけど・・・

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