第28話 滑走 - perspective B-3

06:30

 ガラガラ、ゴロゴロ、TF-1はゆっくり滑走路上を後ろ向きに戻されていく。榎本はくるっと逆を向いて歩き始める。早川が急いでついていく。

「次は高速滑走。配置は100m、200mになるわ」

「そういうことですか。でも機体の確認しなくていいのですか」

「わたしは主翼が見たいの」

「はあ、そういうことですか」


 スタート位置に戻ったTF-1が遠くに見える。200m程離れている。


 吉田の大きな声が聞こえる。

「今度はもっとスピードを出します!高速滑走です!主翼がもっと撓むので翼紐のフォローは気をつけて!」

「いま風はやや右から0.2m/s。それでは加藤の合図で始めます!」

 榎本はやはり翼端を見ている。右の方だけ少し煽られているわ。でも二本目でそんなに無茶なことはしないでしょう。


「それでは二本目、高速滑走試験。ペラ、回します。3、2、1、Go!」

 加藤の声で機体が動き始める。

 中川は一歩二歩と走り始めるが加速がさっきより鋭い。それに主翼がすぐ頭上を離れていくのが分かる。

 西村は一歩目こそ遅れなかったがTF-1の加速の鋭さに驚いた。慌てて駆け足を速めるが紐への注意が少し疎かになったことは否めない。舌打ちして駆ける。

「右引いて、右!」

 吉田先輩の声がする。機体が心なしか左に偏向しているようだ。


 後ろでカメラを構える佐々木は機体が真っ直ぐ走っていないことに気づいた。右の翼だけが高く上がっている?いや胴体も傾いている。夢中でシャッターを切る。


「減速!」

 機体のコースは明らかに滑走路の端へ向かって曲がっている。西村の頭の上の主翼は次第に下がってきた。これはもう直接支えるしかない。西村はワイヤステーションを掴もうと手を伸ばす。

 TF-1はだいぶ横を向いたが滑走路を飛び出す前に止まった。中川は何とか右翼の翼紐に飛びつき引いた。機体が真っ直ぐに起き上がる。

 機体が止まったのはスタート地点から100m程、ちょうど第1層の配置場所だ。


「ハア、ハア。何か異常あるか?」

 追いついてきた吉田が聞く。

「いえ、翼が地面に接する前に支えられました。異音も特に聞いていません。」

 西村が答える。いや、少し出遅れたかもしれない。

「私も異音は聞いていないけど、機体が早くてついていけなかったし、翼が撓むのも早かったです」

「そうか、俺も早々に置いて行かれた。加藤、漕ぎはどうだったんだ?」

「最初少し歯飛びしたかな。でもすぐペラが引くのが分かった。回転は最初は80ちょっとだっただけどすぐに90になったよ。傾いたのは分かった。舵を少し当ててみたけど効かなかった。」

「舵を動かしたのは俺も分かった。それでいいと思う。操舵の大きさはの良しあしはまだよくわからないね。」


「結局、何が原因だろう」

「今の風向きは?」

「0.5m/sで2時位でしょうか」

「風が一番疑わしいかな。もう少し早く気づいて修正できていれば間に合ったかもしれない。次にありそうなのは急加速したからフォロワーの足並みがそろわなかったのかもしれない。少し遅れても翼にモーメントが入るから」

「機体に異常がないようだからとにかくもう一回やってみよう」


 榎本は離れたところで見ていた。危なかったわ。揚力差は無いと思うけど・・・風か、あるいは左サポートね。

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