第17話光の君、両親の蜜月ぶりを知る


やってきました。北山!


「ここが帝のいる寺ですか」


何故か蔵人くろうど中将ちゅうじょうと共に。

皇子を一人では行かせられないという事で(実際、数名の供の者がいたけど腕に覚えのある者はいなかった)、お目付け兼責任者として抜擢された可哀そうな人が蔵人の中将という訳だ。


ま、何はともあれ、寺の責任者に御挨拶だ!

僕はいい息子だから寺への配慮は欠かしません。

ちゃんとお土産も持参してるのだ。







――北山の寺院――




「二の宮様、蔵人の中将様、ようこそいらっしゃいました」


僧都そうず殿、こちらに主上御一行がお忍びで参っていると聞いております。御祈祷を施していただいているとか。こちらは我らの感謝の記でございます。どうぞお納めください」


「蔵人の中将様、私は出家した身です。このような物を受けとる訳には参りません」


僧都そうず殿、失礼ながら、この北山の寺院は老朽しているのではありませんか?少し見ただけですが腐りかけた柱が数本ございました。このままでは数年もせずに寺院は崩れ落ちてしいます。それを阻止するためにも受け取って頂きたい」


中将~~~~!

直球過ぎ!

そこはオブラートに包んで金品を受け取ってもらえ!

金貨や米などを大量に持ってきて「帝の事は他言無用だから金持ってきた、受け取れ」はない!

それじゃあ、賄賂だ。口止め料だ!

実際、その通りだけどね。言い方ってもんがあるでしょう。


見ろ!僧都そうずが困り切った顔してるじゃんか!


くい、くい、くい。


仕方なく蔵人の中将の裾を引っ張る。


「?如何成しました、二の宮様?」


心底不思議そうな顔をしないで欲しい。


「ちゅうきょう、こりぇ、きじょうしゅる。ぼくにょきもち(訳:中将、これ、寄贈する。僕の気持ち)」


「はい。僧都そうず殿、こちらの品々は二の宮様からの御心遣いの物です。どうぞ寄贈品として御受けください」


早々、それでいいの。

蔵人の中将は、何故か僕の幼児語を理解出来る数少ない人物だ。

そのせいで、こんな山奥に同行させられたんだけどね。


「二の宮様からの……ならば、受け取らないのは失礼に当たりますな。蔵人の中将様、寺院を代表して、有難く頂戴いたします」


お!僧都そうずも心が動いたようだ。

うんうん。やっぱり言い方って大事。



「我らは主上をお迎えに参った次第であります」


中将~~~~~!

そうだけど、前振りってもんがあるでしょう!

蔵人の中将、もしかして直情型?

まあ、正直者なんだろうな……公家としてはダメかもしれないけど、僕は好きだよ。



「このような山深い寺で、まさかと思ったのですが…思いがけず高貴なお方をお迎えいたしましたこと…誠に名誉な事と……」


ムチャクチャ言い辛そう。

なにかあった?


僧都そうず殿?まさか、主上の病状はそれほど悪いのですか?」


「いいえ、そうではございません。『体の調子が優れない故に祈祷を受けのきた』と仰っておりましたが、この北山は気候もよく空気も清浄で澄んでおります。祈祷よりも、ここで過ごしていれば直ぐによくなるのですが……」


「なにか?」


「……御一緒の女房殿との毎日が…その…北山の空気を乱していると申しますか。祈祷と共に…淫声いんせいが客室から漏れてこられて……」


「「「……」」」


あ・の・お・と・こ!


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