第50話 夢が叶う時

 以前からこの作品には既存の固有の作品名、キャラクター名がそのまま登場しています。

 今後もストーリーの展開上、作品名、キャラクター名の登場はありますし増えると思います。

 本作はそれらの作品、キャラクターの版元側、製作側とは無関係です。

 その点を御承知おきいただき本作をお楽しみいただければ幸いです。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「な…っ!?マジかよ…っ!?」



 今日は木曜日、通常練習がある為、RAMの事務所にやって来た俺はたまたま見た配役表を見てこれ以上ないほどの衝撃を受けていた。



 現場はとある市の大型商業施設。現場名は昭和ライダーショー。今回は1号、V3、RXが出てくるバージョンだな。

 確かに月曜のミーティングの時に叶さんが日曜に急遽現場がひとつ入った。キャスティングは木曜の練習までに決めると言っていたから恐らくこれだろう。

 それだけだったら別にそこまで驚く事では無い。この世界、そうやって急に現場が入る事なんてのはあるのだろう。今回はたまたまそのパターンだった、それだけだ。



 むしろ俺が衝撃を受けているのはキャスティングだった。

 そこにはRX:桐生連と書かれていた。



 俺がRXを演じる…っ!?初めてのヒーロー役、しかもそれがRXだなんて。

 仮面ライダーBLACK RX自体は俺が産まれる遥か昔に放送されていた作品だからリアルタイム世代では無い。だが、歴代ライダー集合映画では大体出てきていたし、最初見た時から一目惚れという位にそのRXの格好良さに惚れこみ、初めてBlu-rayを購入して特に繰り返し観る程好きなヒーローだった。昔の写真とかでも現役ヒーローと同じ位にRXの名乗りポーズをとっている写真がある。

 あの人については色々と残念ではあるし余り役者自身には興味が行かない俺でも辛かったが、それでも俺自身のRXへの気持ちは今でも変わっていない。


 そんなRXに俺がなる…。それは言葉では言い表せない位のインパクトだった。



「ん?どうした。そんな顔して」



 叶さんに声をかけられた。



「あの叶さん、これって…」

「これ?ああ、日曜の昭和ライダーか。これで決定だ」

「決定ですか!?」

「日曜に仮面ライダーハイパーステージがあるのはリュウも知ってるだろ」

「はい」



 仮面ライダーハイパーステージ、全国各地で巡演されている歴代ライダーが総登場する大型ショーだ。3月以降、RAMが担当する地域でも度々開催されており、登場するキャラクターが多い事からRAMだけなく他の幾つかのアクションチームと合同で行われる。

 ハイパーステージのキャスティングは3月の段階で決まっており、RAMの男子メンバーはほとんどがそちらに行く事になっていた。入っていないのは何かあった場合にと待機していた叶さん、その時点で復帰が未定だった滝本さん、そしてまだ入団していなかった俺位だ。



「それがあるから本当はなるべく女子メンバーだけで行けるプリキュアとか単体で行ける撮影会なんかの現場だけにしたかったんだが、ここの商業施設は昔からうちがお世話になってるクライアントでな。しかも昭和ライダーでと言うのが向こうの強い要望でどうしてもうちでやる必要があるんだ」

「それで僕がヒーローやるんですか?」

「もうお前もヒーローをやって良い頃だと思ってな。お前の都合も決めずにキャスティングに入れたけど、何か予定でもあったか?」

「いえ!全然無いです!」



 むしろRXを演じるなんて機会、仮に予定があったとしてもそれを蹴ってでも絶対にやりたい。



「まぁお前は初ヒーローだからな、心配もするか。キャスティングはここに書いてある通り、RXをお前、1号を滝本、V3は地元に帰ってる西を呼び戻してやってもらう。西はゴールデンでお前も会っただろ」



 西武志にしたけしさんの事か…。ゴールデンの時はライダー班だった人だ。生真面目そうだが割と砕けた冗談なんかもよく言う人だったな、確か。



「怪人はハルがやるし、戦闘員は他のチームから応援を頼んだ。それにシャドームーンは俺がやる。俺達が何とかやるからお前はRXを演じる事に集中すればいい。それにお前は練習も真面目にやっているし、今までの現場を見て問題は無いと判断したんだ。大丈夫、俺の判断を信じろ」



 そう言って俺の肩に手を置く叶さん。ここまで俺を信じて俺ならできると思ってくれていたんだ…。そうやって評価されていた事はヒーローを演じるのと同じ位嬉しかった。



「はい!精一杯頑張ります!!」

「よしその意気だ。今日の練習が終わったら、RXの名乗りだけ教えるからちょっと時間取っておいてくれ。ま、お前は特撮オタクだからポーズ自体は分かると思うけど」



 それだけ言い残して2階に上がっていく叶さん。これは本気で頑張らないとな。

 俺は気合いで心がブルンブルンしていた。



「あ、リュウ君おはよう」

「河原木さんおはようございます」



 入れ替わりに河原木さんがやって来た。

 そのまま俺の隣に立ち、配役表に目をやる。これ自体はメンバー皆いつもやるから特に何も思わない。

 すると河原木さんの顔に笑みが浮かんだ。そんなに昭和ライダーの現場に入れるのが嬉しいのかな?あれでも、河原木さんはゴールデンでも昭和ライダーの現場に入っていたよな…。


 いきなり俺の両手を強く握ってくる。



「え?」

「リュウ君初ヒーローだね!おめでとう!」



 満面の笑みで河原木さんは俺に告げる。俺が初めてヒーローを演じる事になったのを自分の事の様に喜んでくれる。本当にいい先輩だなぁ…。



「ありがとうございます」

「しかもボクは怪人役かぁ~。リュウ君の初ヒーローで同じ現場に入れるなんて嬉しいな。RXと怪人との殺陣の所は多分、ボクがつける事になるね。RXが格好良く見える殺陣を考えてくるから期待しててね!」



 そう言ってウィンクしてくる。格好良く見える殺陣か…。本当にこの人は俺の事を考えてくれているんだな。そういう先輩に恵まれた事が何より嬉しい。



「それにこの話はRXとシャドームーンがダブル主役って言う位の話だからね。ま、シャドームーンとの絡みの所は叶さんの胸を借りるつもりでやれば大丈夫だよ」



 RXとシャドームーンのダブル主役!?


 あっ確かにそうだった。ゴールデンの時に戦隊班に入っていたけど事務所の大広間に戻った時にたまたま昭和ライダー班の人達がその時撮影した映像を観ていたから一緒に観させてもらっていたんだ。RXとシャドームーンの宿命を軸に進むストーリーだった。

 そんな大役をまだまだ新人の俺に叶さんはあてがってくれたのか…。

 これは責任重大だし、逆にそれは新人気分を捨てて一人前のスーツアクターとしてやっていけという叶さんの期待の表れでもあるのだろう。


 俺の心の状態は正に熱いぜ!燃えてきたぁ~!!という感じだ。



「まっ、まずは今日の練習だね。ほら早く上で着替えよう」



 河原木さんに言われて俺も2階の男子更衣室に行き、ジャージに着替えた。



 そしてその日の練習もつつがなく終了した。

 その合間、武田さんや矢部さん達からも「リュウ、初ヒーローだな!」とか「しっかりやれよ~!」と色々と激励を受けた。本当に暖かい先輩達ばかりで気持ちがますます引き締まる。



 矢部さんからグループライン経由で音源を、台本は手渡しで受け取り、道場で叶さんからRXのポーズの指導を受けた。

 RXのポーズはかなり複雑だ。俺もかなり観ていてポーズの流れ自体は分かっていたつもりだったのだが、観るのとやるのでは全然違う。実際に自分でやってみて叶さんからは「キレがない」「動きが流れている」とかなりダメ出しを受けた。


 このままリハまでRXのポーズを特訓したいのだが、現実にはそうもいかない。音源と台本の確認と併せてRXのポーズの練習という課題を持っていつも通り銭湯に寄りつつ、帰路に着いた。勿論、RXのポーズを確認しながら、である。



「あ…」



 家の前まで来ると一台の車が止まっていた。

 恐らく姉ちゃん達が丁度帰ってきたのだろう。ほら3人が車から出てきた。



「姉ちゃん達お帰り」

「あ!連く~ん♡」

「連ちゃん…」

「連!」



 俺を三者三様の反応で出迎える。とりあえず姉ちゃんが俺に抱き着きに来たので避けた。



「もう~!連くんの意地悪~!」



 姉ちゃんが文句をブー垂れてるが無視だ無視。



「ところでアヤ、大丈夫?」

「ん、わたしは大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

「そう、なら良かった」



 俺はアヤの状態を確かめた。ついこの間、アヤはある男によって辛い目に遭わされた。

 その晩は俺と一緒に居る事になり、朝になったらいつも通りのアヤになっていたが、俺としてはまだどこか無理しているんじゃないかと不安だった。

 姉ちゃんと穂希もこの件を知ったらしく、酷く心配していた。一応、夜にラインも送っていたらしい。



「もうそんなに心配しなくても大丈夫だよ。わたしはこの通りだから、ね?」



 アヤもそんな俺の気持ちに気付いたのか明るく笑う。



「そんなに心配してくれるならまたわたしと一緒に寝て欲しいな…」

「ハイハイストップ!2人だけの世界に入らない!」

「連くんと一緒に寝るのは姉である私の特権なの!綺夏は邪魔しないで!」



 俺とアヤの間に割って入る姉ちゃんと穂希。



「あなた達、話がしたいなら家の中でやりなさい。こんな所でいつまでも駄弁ってないで」



 車の中から「ディーヴァ」のマネージャー兼プロデューサーという女の人が呆れた様に言ってくる。それに素直に応えて俺達はそのまま俺の家のリビングに入っていった。



「あ、そうだ姉ちゃん達に言いたい事があるんだよ」



「「「えっ!?」」」



 俺の言葉に色めき立つ3人。そう、俺は遂にヒーローを演じる事になった事をメンバー以外にも言いたかったんだ。だが、誰彼構わず言うべき事では無いとは分かっている。言う相手によってはその相手の夢を壊してしまう事にだってなりかねない。スーツアクターというものはそういうものだ。

 そういう意味でも俺とそれなりに縁があり、特撮に特に関心の無い3人は適任だった。



 あれ?でも3人の様子がおかしい。何かモジモジしている。



「そんな連くんからだなんて思っても無かったな…。お姉ちゃんはいつでも大歓迎なんだけどねそういうのは2人きりの方が良いかなぁ~って…」

「連ちゃん、やっぱりあの時気持ち良かったんだ…。わたし達これからそういう関係になるって事だよね…。ならどれだけ好きにしても大丈夫だよ…」

「ったくアンタ、こういうのはもっとムードってもんを考えなさいよ…。でも、まぁようやく気付いたんなら気付いたで嬉しいけど…」



「3人共何言ってんの?まぁそれはともかく俺、日曜にヒーローやる事になったんだよ!!遂に夢が叶うんだよ!!」



 俺は興奮を隠し切れずに伝えた。ようやく訪れたこの時この瞬間を誰かと分かち合いたい。さぁ分かち合ってくれ姉ちゃん達…!



 と思ったら3人のリアクションが芳しくない。期待していたのと違うみたいな顔をしている。いやそこは期待通り!おめでとう!的なテンションだろ!



「はぁ…そういう事か…。まぁ連くんだしね…」

「何だ…。ちょっと期待したのに…」

「ったく、もうアンタはほんとつくづくね…」



「いや何!?そのリアクション!?俺、ヒーロー役やるの!俺の夢が叶うんだよ!」



 そんな俺のテンションを見て3人共考えを変えたのか表情も変わった。



「ヒーローになるか…。連くんは確かにずっとヒーローになりたがってたもんね。おめでとう!」

「入団してまだそんなに経ってないのにヒーロー役なんて大抜擢だね」

「ま、まぁ頑張んなさいよ」



 反応は三者三様。まぁこれが俺達と言えば俺達か。



「ところで日曜に連くんがヒーロー役やるのってどこでなの?」



 姉ちゃんがそんな事を聞いてきた。これ言っていいのかな?まぁ姉ちゃん達の事だろうから別にそこまで関心を持っている訳じゃないから大丈夫か。



「確かとある市の大型商業施設」



 俺がそれを言うと3人が集まって何か話し出した。

 小声だからあんまりよく聞こえない。



「確かあそこよね。昔、インストアライブやった所」

「うん、間違いない。あそこだね」

「日曜って何の仕事だっけ?」

「確か公式ユーチューブチャンネルの撮影だけだったはず」

「私は丁度映画は撮休ね」

「あの動画撮影結構かかるんじゃなかったっけ?」

「でも連ちゃんのヒーローデビュー、本当のデビュー現場は見逃してるから絶対観たいし」

「今スマホで確認したら12時開演と15時開演になってるわ」

「撮影って朝の7時スタートだったわよね?」

「15時開演の方までに何とか終わらせればいける。あのスタジオからそこまでそんなに距離が無いから」

「あ、でも綺夏あんな事があったばかりだけど大丈夫なの?」

「うん大丈夫。それよりこっちの方が大事だから」

「なら決まりね。日曜は頑張るわよ」



「何の話してんの?さっきから」



 俺の声にビクッとなる3人。一体何なんだ?



「ううん、連くんには何でもないの」

「とりあえず日曜頑張ってね」

「せいぜいミスするんじゃないわよ」



 それだけ言われるとアヤと穂希はそれぞれ帰っていった。

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