第18話:その力は何が為に。
中央の戦局は大きく龍神王のいる陣営に傾いただろうと誰もがそう思う。
ただ飛来しただけでこの重圧感と圧倒的な力の差を騎士たちは目の当たりにする。
「シャオノーゲン何をしている。」
「見て分からないかい?弁論さ。互いに戦争をする目的について話し、互いに誤解をしていないか擦り合わせをしていたところだよ。何年ぶりだろうか。理性を保ったままこちらの話を聞いてくれるような強靭な人間は」
シャオノーゲンは嬉々として龍神王に話す。
「その口ももう終わりだ。人との会話など我らに意味を持たない」
「いいや、意味を持たせるんだよ、王。意味のある会話を心がければ平行線の道もいずれ交わる。同胞を殺さないで済むかもしれない。互いに犠牲を出さないで済むのならその方がいいに決まってる」
龍神王は腕を組み、目を閉じる。一考する姿勢を見せているようなのか、シャオノーゲンは続ける。
「彼らに会うまでは君に発破をかけた時のように南の国を滅ぼすつもりだったのは違いない。だが、彼ら…特にそこのワインのような毛色の彼は我らが同胞たちの虐殺が目的ではないらしい。その証拠に、戦いをやめさせている。なので私の軍も一旦引かせた。」
「では何か。貴様はあろう事か、今まで無惨にも殺された同胞の無念をなかったことにするというのか」
龍神王は問いかける。先に手を出したのは人間側だと。
「そういうわけじゃない。痛み分けだよ。我らが同胞の…人の言葉で竜族といったかな?その子たちを人間は殺した。けれど…龍神王。君は彼らの仲間を喰った。それは自身の強さの誇示なのか、気まぐれだったのかは私たちは知らない。けれど、憎まれている明白な理由がある。彼らは嘘は言っていない。言う道理がない上に、私の目にも嘘は写っていない。同胞たちが今も死んでいるのは、辿ると君自身の責任だよ。我らが王よ。同胞たちの仇討ちというならば君は自分自身に爪を向けなければならない」
シャオノーゲンは目を細め、龍神王のほうを向くが、彼は口を閉じたまま黙っている。
「あなたのその絶大な力は何の為に、何が為にあるというのだ龍神王。人から大切な者を奪っている我らが奪っていいわけがない。だから痛み分けだ。これ以上、中央軍は動かさない」
「星龍シャオノーゲン、英断感謝する。新生セクバニア王国の国王として私達もこれ以上の戦争を望まない」
場は収まっていく。されど、龍神王が直接現れた事で人の畏怖が大きく増幅され、暴徒化する。
それは収まったはずのこの戦地も変わらない。
恐怖するような叫び声を上げながら竜族を攻撃し始めるセクバニア軍。
「っ!もう戦いは終わりだ!取り押さえろ!」
「王の覇気にあてられたか…武器を奪い、取り押さえよ!あの人間は王の力にあてられただけだ。」
タタラとシャオノーゲンは暴徒化した人間を抑えるように号令したが、時既に遅し。
「やはり人と、人に与する者は愚かでならん。」
龍神王が行ったのか暴徒化した騎士と、捕縛しようと動いていた騎士が一瞬で灰燼となった。
「王。何を…!あなたの気に当てられてしまっただけだ。」
「嗚呼、そうだろうな」
シャオノーゲンの呼び掛けに真っ直ぐ頷く龍神王。
「まさか…開戦前に我らが同胞が襲撃を受けたとちうのもあなたが…あなたの気によって暴徒化したのを知っていて…」
「当たり前だ。この力は我が最も理解するところである。」
「ならば初めから我ら四賢龍神を煽るつもりで…その力を…」
シャオノーゲンの問いかけに龍神王は目を閉じ黙った。
「これは我にも抑えが効かないものだ。知った事か。いずれは人間共と争わねばならぬところであった。それを弁論などと戯けた事で解決しようとする事が愚策。我ら龍は人間たちと交わる事は無い。」
騎士たちが仲間を殺した龍神王に剣を振り、魔術で攻撃を行い始める。それも虚しく龍神王の咆哮が全てを飲み込み、大地もまた抉れた。
「シャオノーゲン、ありがとう。刹那的ではあったけど、龍神族にも君のようなヒトがいて嬉しかった。ヒトって言うのも少し変だとは思うけど、君は争う前にしっかりと人の意見を聞き入れてくれる素敵なヒトだ」
タタラは剣を抜き魔力を纏う。その纏う魔力は龍神王と初めて見《まみ》えたあの日より遥かに多く猛々しいものだった。
同時に黙って見ていたマルスも再び剣を取り、龍神王に向かって剣を構える。
「あの日以来だな。龍神王。アリアベールの仇、今日こそ取らせてもらう」
「命を賭してお前たち人間を守った小娘か。自ら差し出した事すら仇というのか。それはアリアベールに対する冒涜になるのではないのか」
途端に響く打撃音。モンバットとポリメロスの攻撃を龍神王が受け止めた音だ。
「貴様らは下にいたやつらか。」
「モンバット・ヴァリエンスよ。以後よろしくねッ」
すぐさまタタラの元に後退するとモンバットは名乗りをあげる。
「騎士同士じゃねぇんだ名乗る義理なんてねぇはずだが…ポリメロス・ロンユースだ。お前を蹴り殺しに来た。」
2人が離れた後に鎖が龍神王を捕らえる。
「この程度の縛りで我を捉えられるとでも…くっ!」
縛られた鎖から無数の六角棘が生え、龍神王の体を突き刺す。
龍神王に敗れた日からタタラがローゼンの元で鍛錬を重ね編み出した
「
刺されている棘から体内に注入される何かを龍神王は感じた。
「随分と矮小な毒だ。この程度意味が無いと分からぬか!!」
咆哮によって生まれた衝撃波は周りの存在を吹き飛ばす。
「
「
即座にメリオロスとアスベニウスは巨大な炎の槍と氷の槍を投げ放つ。
「無駄な事を…これは…」
龍神王が槍を受け止めようとした時、槍の軌道が僅かにズレ、交錯し、瞬時に辺りが水蒸気で包まれる。
「
龍神王の周りに漂う水蒸気が瞬時に凍てつき、龍神王の体は凍結する。
大地に激震が走ったかと思えば氷を砕いて龍神王が飛び上がる。
「貴様ら程度の力の何もかもが無駄だと分からぬか」
「
全身に纏った炎を翼と化し、アスベニウスが龍神王に迫る。
「
龍神王に衝突する直前、モンバットの魔術によって速度が早まる。
「1人で何が出来る!人間風情が。」
龍神王はアスベニウスと同じく炎を纏い、突進を仕掛ける。
「1人じゃねぇ!!」
両者がぶつかり、熱による波動が辺りに吹き渡る。
「タタラァッ!」
アスベニウスが呼び声を上げると同時に、周囲には4本の白い光の柱が空から地上へ降りる
「今ここで古代魔法の欠片を使えど無駄であろうが!同胞とやらを犬死させるだけであるぞ!」
「今ここに永久の魔を集積させる。我が友アスベニウスに力を。
天より降り注ぐは無数にも近い魔力。
魔力を散らせ無効化する聖魔、魔力を跳ね返す
4本の光が光る周辺に存在する魔力を一時的に借り受け、中央に位置する1人に集約させるタタラの新魔術。
辺り一面の魔力が焔となってアスベニウスの拳に収束する。
「
「それでも小細工だ人間ッ!」
真紅に燃ゆる炎を溜め込んだ龍神王がその口を大きく開いた瞬間、アスベニウスの右拳が口内に突き刺さる。
「グッ?!」
嚙み切ろうとするも膂力が強化された左腕で上顎を、タタラが聖魔を纏った鞭が龍神王の下顎を捉え、地上にいるモンバットが強化した腕に血管が浮き出るほどに力強く引っ張る。
「喰わらせてやれ!若いの!!」
「「「クロロマリウス卿ーッ!」」」
ポリメロスを始めとする騎士団員全員がアスベニウスを信じて叫ぶ。
龍神王はそのまま龍炎を吐き出そうとするが全てアスベニウスの拳に吸い込まれていく。
「ボケが。テメェの炎も全て"力"だろうが!!喰らえやド三流!!…
龍神王は初めて目の前の人間に目を見開く。
「
凝縮された焔は口内から迸り、火炎をもろともしないはずの龍神王の身をみるみる焦がしていき、龍神王の勢いが止まった瞬間をモンバットは逃さない。
更に体を強化し、隻腕とは思えない力と、アスベニウスの炎の勢いによって尖った岩山に叩きつけられた。
龍神王の身は全体が燃え盛り始め、初めて身を焦がされる痛みか、それとも別の意図か。人の耳には耐えきれないような咆哮を上げ始める龍神王に対して、着地したアスベニウスが右腕を大きく天へを掲げる。
「クソトカゲ。てめぇは人間をナメすぎだ…」
過剰な炎により大火傷を負ったアスベニウスの右腕は、また同じく炎によって不死鳥のごとく再生されていく。
その瞬間、中央の騎士団は龍神王の咆哮に負けじと劣らない歓喜の大喝采に包まれた。
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