第32話:無双のお時間です。2

 ゴブリンの死骸が三体分できた。少し嫌だが、死んでいるゴブリンを人体模型のように転移で表面ベリッと開いてみる。


 人間と似たようなつくりの臓器類、心臓位置には魔石と思われる青色の石を確認。魔石のサイズは、一般的な未使用の消しゴムくらい。


引きつつも意を決して触れると……なんとも言えない感触にゾワッとした。


 手についた汚れを意識して転移。どちらかというと洗いたいが、洗えないのでひとまずこれで諦める。


《シズヤ……冷静ね?》

引き気味な感じがする声を出す女神さま。


《いやいや、十分無理して頑張ってますからね? 誰が好き好んで、こんなことするんですか……俺はサイコパスではありませんよ。》


好んでやってると思われるのは不本意です。


《それならいいのだけど……》

まだ不安そうな女神さまに少しショックを受ける。


本当ですよ? 俺、変なへきなんて無いですからね?


 取り敢えず、気を取り直してゴブリンの討伐証明部位である、右耳を剥ぎ取り魔石と共に持ってきた納品袋にポイ。


 ああ、討伐された魔物はカードに登録されるが、二重の確認の意味で部位納品なのか……今気づいた。魔物によっては一部加工素材になるらしいしな。


 そのまま次の獲物を──と思っていると、狼みたいなのが二体寄ってきた。鑑定結果はウルフという魔物だった。


 ゴブリンの時も思ったが、ウルフも食欲は湧かないので、ただ討伐するだけでいいかな……。元の世界では、犬を食べる国もあると聞いたことはあったが、俺は絶対無理だったし狼もいいや。


 グルルルッ と唸って、飛びかかってくるウルフを木刀でなす。ウルフはゴブリンと違って、元の世界にも狼が存在する為少しやりづらいが、これは魔物なのだと割り切ることにする。


 往なしたウルフとは、別のウルフが飛びかかってきたので、今度は木刀で打撃を与える。ウルフはキャインッ と鳴いて吹っ飛んだ。吹っ飛んだ拍子に思い切り、木にぶつかってよろけているので、その隙にウルフの横に転移してタッチ。


 あとは簡単な作業。ウルフの臓器にも、触れておかなければいけないので、サクッと二体同時に首から上と胴体をおさらば転移。ウルフの血も赤で、魔石は青色だった。


 ウルフ二体も討伐完了。ウルフは毛皮も持ち帰るといいらしいけど……そういや剥ぎ取り方を知らない。後で誰かに……誰に? 教えてくれそうな知り合いが浮かばない。仕方ないので、冒険者を見かけたら聞いてみようか?


 そう思いながら、人体模型よろしくウルフもベリッと転移でお開き。さっきと同じく、臓器類に触れて汚れを転移して、討伐証明部位と魔石を納品袋へポイ。これは初回限定で毎度お馴染みの作業になりそうだ。


 ふと周りを見ると死屍累累ししるいるい、これってこのままで良いんだろうか? 食物連鎖的に、こいつらを食べに別の魔物が寄ってきてしまう気がする。しかしそう思ったところでどうするか……。


 転移で地面に穴を掘って、開けて? ゴブリンを埋めることにした。ウルフは一応持って帰ります。重いけど……あ、転移で持ち運ぶか。


 穴にゴブリンをポイ。再び転移で穴を塞ぐ。綺麗に元の地面に戻るので完全犯罪ができそうだ。しないけど……チラッと中崎がよぎったけどホントにしませんよ?


流石に殺したいとは思ってない。勝手にどこぞで死ぬ分にはいいけど。


さて、次は……もう寄ってくる気配がないので森の奥に進むか。


 一〇分ほど歩いたところで人の声が聞こえた。これは……魔物と戦ってるのか? やあ! とか、うおお! とか聞こえる……。


 スルーするか魔物の解体方法を聞くか……あ、俺木刀しか持ってないや。どうやって魔物を倒したか、とか聞かれたら面倒かもしれない。ナイフか何か買ってからにしよう。今回はスルーすることに決定。


《装備的にも魔物が蔓延はびこる森の中にいるのは不自然よ……》

だそうなのでやっぱりNG。


 少し離れた場所へ、イメージ転移。先ほど前方で聞こえていた声が、後方から聞こえるようになったからこれでよし。


さて次は何に出会うかな〜?


《……ピクニック気分ね》

呆れたような声の女神さま。なんで?


《ピクニックというより、気分はまさしく冒険ですよ?》


まだ見ぬ場所や魔物に出会うために進んでる感じが楽しいです!


 女神さまは、そう……。と言って黙ってしまった。そんなこんなしていると、またしてもゴブリン三体にエンカウント。


 ゴブリンの戦闘スタイルはスリーマンセルな予感。一体見たらあと二体いると思え! 的な。計画的で最初は一体で、後から二体合流というのも同じっぽい。


 またゴブリンかー……と思いつつも、臓器に触れた結果できるようになった検証を試すことができると気付いた。


 ではまず〖対象の体内に何かを転移が可能かどうか〗イメージは木の枝をゴブリン一体の体内に転移──成功。ゴブリン一体の体内から木の枝が生えた。


 この検証で〖一度触れた種族ならば対象にできる〗ということも証明されたな。なんとなくでは分かっていたけど安心した。


 仲間のゴブリンの体から、いきなり木の枝が生えたことに恐怖を覚えたのか、逃げ出そうとする残りの二体。ダメです逃しません。両足転移で歩けないようにする。ギャギャッギャギャッ とうるさいが気にせず検証。


 血やら臓器を取り除いた、魔石のみをイメージして手元へ転移──成功。汚れのない綺麗な魔石が二つ手の中に……ただし生暖かいのは少し不快だった。今し方生きていたのだから仕方ないか。


 魔石を失い、燃料切れのロボットのように事切れている二体から、右耳も転移で回収しゴブリン三体討伐完了。埋葬処理する。


 あとは確か、今回の依頼では〖下位個体〗って言ってたから〖上位個体〗がいるんだよな? それにも、同じ種族なら通用するのか試しときたいな……。いないかな〜上位個体。


《そんな軽さで、上位個体の魔物を探せるのも、シズヤくらいよね……》

ボソッと女神さま。


《そんなに桁外れに強いんですか?》


 上位個体と言っても所詮しょせんゴブリン。アレが強くなるって感じなら、立ち回り次第では脅威に感じないと思うけど……。


《上位個体は、体格も大きさも強さも賢さも変わるのよ。あのゴブリンが、そのまま強くなるわけではないの、んー分かりやすく言うなら、猿がゴリラになる感じ?》


あ、それはとんでもないかもしれない。


 話しながら歩いていたら、いつの間にか洞窟みたいなところにいた。なんでだろ、ここどこだ? 最悪転移で戻れば、迷子になっても大丈夫だけど……と考えていたら、目の前の洞窟からなんかわらわら出てきた。


 数十体のゴブリンと……緑色の体に、顔つきも似ているのに明らかに、ゴブリンよりは何倍も大きい体をしているのがいる。


「うわぁ……」


 思わず声出た。それくらいデカい。確か俺の身長が、一七五センチ前後だった気がするから、こいつは二メートル……以上かな? 普通のゴブリンなんて比じゃないくらいドデカい。


 これ本当にゴブリン? 同じ種族ですか? 通用しなかった場合下手したら俺、死にません?


《良かったわね。お探しの上位個体よ……ゴブリンのね》

鑑定してごらんなさい。と揶揄からかうように言う女神さま。



恐る恐る鑑定──


個体名ゴブリンキング:ゴブリンの上位個体。周囲の群れの王。


──ホントだ。これが……? まじですか……。



 と、取り敢えずなるべく冷静に……まずは、ゴブリンキングを対象に──首を転移。


……最初に首とか冷静じゃないかもしれない。どんな動きをするのか見ておけば、今後何かの役に──いや、初エンカウントでそんな余裕があるかいっ!


《ごりごりのノリツッコミするじゃない》

ふふっ と笑う女神さま。


それだけ取り乱してるんですよ。俺!


 対象にした上位個体のゴブリンキングはというと……ズゥンと重そうな音を立てて、地面に崩れ落ちた。


 瞬殺。よかった、通用したみたいだ……。これで本当に、本格的に安心できる。あとは触れてない魔物を、減らすことが優先だな……。触れてしまえばこちらのものだから。


自分達の王が、一瞬にして倒されてしまい、周りの下位個体ゴブリン達は大騒ぎ。


 騒がしいので、まとめて首と胴体をおさらば転移。あっという間に死屍累累。しまった血が出るからこれからは魔石転移にしよう。そう決めて魔石と右耳をそれぞれから回収して納品袋へポイ。


 ゴブリンキングの魔石は、青色ではなく赤色だった。あと魔石の大きさもこぶしくらい。上位個体だからかな?


 上位も下位もまとめて埋葬転移。これでよしっと、ゴブリンキングとゴブリン複数体の討伐完了。まだまだ、時間はあるからどんどん行こう。


 それから、歩いているとまた複数のゴブリンに複数のウルフ、二体目のゴブリンキングにエンカウント。それらを討伐、回収しながら森の奥へ進む。


 森に入ってから、大分歩いたし討伐したなって時、目の前にウルフが二体。またウルフか……と思っていると、その背後からもう一体。


 そいつは、明らかに今までのウルフとは違った。顔つきや毛の色なんかは似ているが二足歩行……いわゆる狼男のような姿だった。



 多分、こいつがウルフの上位個体なんだろう。他のウルフを従えている気配と、賢そうな雰囲気を感じて少し気を引き締めた。

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