第四章 chapter4-2
「それで桜夜君、君に事情を話したのには理由があるんだ」
津々原が雪声が煎れてきた珈琲を口にしながらそう言って話を切り出す。
「事情……ですか?」
「そうだ、さっき話したとおり警察には話したくない、けど僕達以外の人手もは欲しいんだ」
親友であるみかさの安否が関わってるため、津々原の言葉を私は黙って真剣に聞いていた。
そして知らず知らずのうちに膝の上に置いてある拳に力がこもっていく。
しばらくその津々原の言葉を聞いた後考えていた私は口を開いた。
「つまり私に何かお手伝いが出来る事があると言う事ですか?」
「そう言う事になる。本当は君を危険な目にあわせる可能性がありできれば避けたいのだが、事は急を要するからね」
そう言って津々原は、起動しているタブレットを私と雪声の前に置いた。
「それは先ほど事務所宛に届いたメールだ」
タブレットの液晶画面に映っていたメールには、雪声とみかさとの交換要求と捕らわれ、手足を縛られているみかさの写真画像が添付されていた。
「私は……何をすればいいんですか?」
「君には雪声と入れ替わりで、奴らに捕まって欲しい」
「……え?それはどういう事ですか!!」
事のなりゆきを今までは黙って聞いていただけの雪声が珍しく声を荒げて激高し、テーブルを叩いた。
余り大きくはないテーブルは激しく揺れ、珈琲がテーブルの上にこぼれる。
声を荒げる雪声というものを初めて見たことで、私は逆に毒気を抜かれてしまった。
「落ちついて、雪声の事を言われた訳じゃ無いし……」
「それはそうだけど……」
さっきとは逆で私が雪声の事をなだめる。
少し落ちついたのか、ゆっくりと椅子に雪声は腰掛ける。
一息私は大きく息を吐く、そして津々原の方を見た。
「詳しく話を聞かせてもらえますか?それ次第です」
否定でも肯定でもないその声を発した私の浮かべた表情は真剣そのものであった。
「ああ、判った。出来れば君には雪声に変装して交換に応じて欲しいんだ」
「私が雪声に変装して?」
「ああ、彼女は君と違っていざというときの訓練を受けている、だから君が捕まったときに私達が助けに行くことができる、その為だ」
津々原のその言葉は私にはとても真実味を帯びて聞こえた。
『……これは嘘だ……』
しかし私はその津々原の言葉が嘘ではないが、真実ではないという事を何故か感じていた。
だがここでそれを言ってしまうとどうしようもなくなると思い、口を噤む。
「君に雪声になりかわって、もしその場でみかさ君を奪還できれば良し、出来ないときは私と雪声の二人で君のことを助けるこれが現状一番リスクが少ないはずなんだ」
「……判りました、私もみかさを助けたいし、時間もないのでお手伝いさせて貰います」
「桜夜……」
雪声が小さく私の名前を呟くが私はあえてそれには答えなかった。
私には雪声の気持ちがわかる気がした。
今までの態度から津々原にとってみかさの事はどうでも良く、この話に乗らなければ助ける気さえないのかもしれないと思えていたからだった。
雪声は私の取った態度を見て津々原には聞こえぬ小さな声で彼女に囁いた。
「大丈夫、何があっても桜夜とみかさは私が助けるから……
小さな雪声の呟きが私にはとても心強いものに聞こえたのだった。
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