16.第5ピリオド開始


 第5ピリオドを告げるラッパの音。


 アリーナの外周には、今までのピリオドでは設置されていなかった『?』と大きく表示された不定形のモヤのようなものが出現した。


 今までは種類数多な武装の数々があったのに、今回だけ特別のように設置されている。


 最初にアリーナに転送された2人は迷うこと無くその『?』へと駆け出すが、ラッパの音がなる前から対峙し続ける『華』の3人が眩い光に包まれる。


 ――三者三様、光が収まる頃には、戦闘に特化したドレスへとチェンジしている。


 それと同時に、アリーナと観客席を隔てるかのように、透過率の高いレースのような壁が出現した。


「おい! 国王様を見ろッ!」


 観客の一人が声を上げる。貴賓席の頂点に鎮座する国王の傍らに、赤色のマントを羽織った、大剣を携えた女性が立っていた。


 ――『瞬獄』のホムラ。王国を代表する大魔女にして、7人抜擢された特別位にして首席魔女。国王の次に、知らぬ人がいないと言われる、大豪傑。


 その彼女が、この第5ピリオドで起こりうるあらゆる『災害』から国王を守護するために特大な魔法障壁を展開している。


「――やはり出ましたわね、


 そう言葉をこぼしたのは、レザースーツの様に全身にフィットした礼装に身を包み、鉄靴と脛当すねあてを履き、長い縦ロールの金髪をレベッカのように結わえたマグライト。


 ――その彼女に飛びかかったのは、全身を真っ白の鎧で包み、竜の背骨から打ち出した大業物『テリオン』を大きく振りかぶったセル=M=シシカーダ。離れた距離を刹那でゼロにする跳躍に、誰もが息を呑む。


「なにっ――!?」


 振り抜いた剣が空を切る。マグライトの胴体を袈裟斬りにしたかと思われた太刀筋が、マグライトの虚像と共に消失する。


 一瞬の出来事にセルがマグライトの姿を見失い、――そのセルの背後から、炎を纏った拳を打ち付けようとしていた。




 ――その隙を、3人目の『華』は見逃さない。




「ちっ――!」


 思わずマグライトが身体を逸らして後退する。


 ギリギリを掠めたのは、鎖の付いた鉄杭の連撃。2本の鉄杭が一寸の狂いもなく、マグライトの頭と胸を狙い放たれる。


 鎖の向こう側には、全身を黒い包帯のようなものでグルグル巻きにしたメリー=バックハイド=アーバンデーセツの姿があった。


 背後のマグライトの存在に気付いたセルが、返しの刃で横薙ぎに振り抜く。それを、マグライトが蹴り上げて軌道を変え、体勢と整えるために後方回転し、間合いを開ける。


 そこへ、虚空から再び鎖の付いた鉄杭が襲いかかる。その数、4本。2本がかわされるなら、その倍で襲いかかる。


「――『きんくさび貴様きさまつなぎ、1と0をへだてるかべとなれ! 金屏の檻ゴールド・プリズン』――!」


 マグライトが高速詠唱を持ってメリーの周囲を光の格子が展開させた。


 束縛系の魔法により、突如としてメリーの放つ鎖が魔力の粒となって四散され、――セルの剣の切っ先が真っ赤に染まる。


「――『りゅうえよ、わが障害しょうがいことごとせ! 竜槍りゅうそうつめ』――!」


 地面を抉る、縦割りの斬撃がマグライトへと肉薄する。


「どっっっっっっせいッ!!」


 ――その魔力を圧縮した斬撃を、マグライトは魔力と気合を込めた右ストレートで討ち滅ぼした。


 吹き荒れる魔力の残骸は地面をえぐり、巨大な岩の塊となった地面が、国王のいる貴賓席まで吹き飛ばされる。


 その岩は、『瞬獄』のホムラによって展開された障壁により、塵となって粉砕された。


 マグライトとセル、メリーの3人の『華』による攻防に、一瞬声を上げることを忘れていた観客が大いに盛り上がる。


 今の攻防で、魔法少女として並の才能の持ち主なら、きっと最初の一手で地に伏せただろう。それだけの実力を、十分過ぎる実力を群衆へ魅せつけた。




 ――その端っこで、一人目の命が散ったことを、群衆は見てすらいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る