15.リングコールはセンスが命


「――国王が定める闘技場『コロシアム』に御出でになられました紳士淑女の皆様方、おまたせしました!

 本日最後を彩りますのは、国王自らがセッティングしたビッグカード! 魔法の才が認められた三輪の『華』によります大混戦! 誰が勝っても恨みっこなし! 勝てば強者、負ければ弱者のスペシャルマッチ!

 第5ピリオド、これより開始ですッッッ!」


 セバスチャンの声がコロシアムに響き、何度目か最早わからない大歓声が建物を揺らした。


 第4ピリオドまでを終え、長丁場の式典初日に、会場の誰もが疲労を忘れて大盛り上がりしている。


 ――特別控室にいた一人の少女の姿が消えた。セバスチャンのコールに合わせて、アリーナへと"転送"させられていた。


 レベッカたちが見えないところに予告なく送り出されているが、響いてくる歓声がレベッカの気持ちを昂ぶらせる。




 ――一刻一刻が、死刑宣告として彼女の心を蝕んでいく。




「――3人目は、辺境地ゲーナインより! 父君はかの特別技工士コクトー=クワッガー=ボガード! 聖都の皆様方にも大層な人気を誇る王国きっての大職人! 3代前の失策より貴族位を剥奪されても、その名誉ある功績により特別貴族として讃えられます! その一人娘が、この場に立ちます!

 レベッカ=クワッガー=エーデルフェルト=ボガードッッッッッ!!!!」


「うわっ――!?」


 セバスチャンがレベッカの名前を叫ぶと同時に、アリーナへと"転送"された。


 しかも、移された場所は、第4ピリオドまでに大きく隆起したところであり、うまく着地できずに思わず尻もちをつく。


「っ――!」


 視線を上げ、緊張感が押し寄せる。


 身体を揺らす鳴り止まない歓声に、焦げ付いた土の臭いに、鼻をつく腐臭が混ざる。鉄臭さが漂う空間に、至るところに酸化して黒く変色した血の池が形成されていた。


 物体こそ無いが、すでにここで20人ばかりの若い命が散ったことを物語っている。


「――続きまして4人目!

 選ばれし貴族、王立聖家! 我が国を代表する大貴族の令嬢がここに!

 竜殺しの一族にして、数代きっての才女の登場です! 緊急通達により急遽第5ピリオドへ編成されましたのは、セル=M=シシカーダッッッッッ!!!!!」


 大きな剣を携えたセルが呼び出される。レベッカまでの3人とは違う、黄色い歓声が鳴り響く。


 セル自身も、アリーナの上で凛とした表情を崩さず、腕を組んで佇んでいた。


「5人目は!

 こちらも緊急通達により編成され、二つ返事で了承しましたのは、王立聖家であるメーガス家の筆頭分家であります、歴史の中に隠れ、代々聖家を支えてきた特別貴族! その中で、正当にメーガス家の血を引くのが、メリー=バックハイド=アーバンデーセツッッッッッ!!!!!」


 メリーもセルと同じく、アリーナに呼び出されても、表情を崩さず、――いや、控室にいたときから、常に一人に向かって険しい表情を浮かべていた。


「――最後はッ! 我が王国の最大の名家にして、王立聖家2位の大貴族ッ! 大魔女の血を引く才女にして、本日最大の『華』の一輪ッ! その彼女が、血塗られたこのステージに立つことを誰が予想したでしょうッ! 残酷の神も、マキナの神も、みな様一様にしてこの舞台を待っていたッ! 歴史に残る大一番ッ! それを彩るのはッ! ――マグライトッ! ドグライトッ! メーガスッッッッッ!!!!!!!!!!」


 最後に"転送"してきたマグライトが、観客に手を振って現れた。


 渦を巻くほどの熱気と歓声が、第5ピリオドの始まりを告げるラッパの音をまだかと攻め立てる。


 6人全てがそろったアリーナで、3人の『華』が――おぞましいほどの殺意を垂れ流した。




 かかげられた数字は、レベッカの絶望を誘う――『1』。




 第5ピリオドの始まりを告げるラッパの音と同時に、戦いを左右する特別ボックスが出現した。

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