13.ペイルライダー
「――セル様、こちらに居られたか」
第2ピリオドが始まった直後、自身の担当を終えたセバスチャンがセル=M=シシカーダの前へと現れる。
王立聖家5位である大貴族の一人は、現在行われている式典には興味を見せず、自室を構える『寄宿城』へと戻っていた。
「何かしら、セバスチャン。国王直属の執事だからといって、レディの部屋にアポ無しなんて」
「ご無礼を。合わせて、通達が遅れたことについての謝罪を」
「通達?」
セバスチャンの手には、緊急通達を示す赤色の封書が握られていた。それを見たセルが、ただ事ではなく、――自身に関することだと察する。
「速く見せなさい!」
半ば強引に奪い取る形で、セルが封書を開く。その内容は、彼女にとっては受け入れがたいことであり、彼女にとって千載一遇のチャンスでもあった。
「国王たっての変更事項です。何卒、ご容赦を」
その言葉だけを残しセバスチャンが姿を消した。一人残されたセルは、ティーセットを置いたテーブルを蹴り飛ばし、
「くっ、ふふ、あはははははははははははっはははははあはははははっ!」
悲しみの混ざる笑い声を上げた。
「――なっ! 私、今日なの!?」
第2ピリオドが終わりを告げる頃、令嬢でごった返しになる控室で、レベッカのもとに訪れたゴンザの言葉に狼狽する。
「左様。本日最後の第5ピリオドにて、レベッカ様には出場して頂きます」
「ちょ、ちょっとまって。そんな、前もっての通達とかじゃないと、心の準備が……」
レベッカの言う通り、アリーナに出されるということは、死刑宣告に等しい。
あの場では、名誉もクソもあったものではないが、為す術もないまま命を散らすことだけは、レベッカの辞書には存在しない。
「まだみんなの記憶に残る方法を考えている最中ってのに、こんなに時間がないなんて」
「後ろ向きな前向きさには感服致します。ですが、ですので前もっての通達でございます」
ゴンザの顔には表情がない。淡々と自身の公務を執行しているに過ぎない。式典に参加させられている側のことは微塵も考慮していない、そんな顔だった。
「いいわよ。あなたには期待していないわ。さっきので懲りたし」
「上々でございます、レベッカ様。では、ゴンザはこれにて」
踵を返したゴンザは足早にレベッカの元を後にした。そして、このタイミングで第2ピリオドの終結を知らせるラッパが鳴り響いた。
レベッカの死の宣告が、また一つ進んだ。
――第3ピリオドが終わる頃、レベッカのもとに再びゴンザが現れ、第5ピリオドのメンバーが招集された。
第2と第3が思った以上に接戦だったらしく、設定されていた時間が大きく後ろにずれ込みそうとのことで、ピリオドごとにアリーナ内の状況をリセットする計画を取りやめとし、前回のピリオドの状況のまま進めることになったようだ。
レベッカが第5ピリオドの出場者が集められる控室に向かうときに、第3ピリオドの勝者の2人とすれ違ったが、どちらも焦燥とした表情で、己の手で誰かの命を掛けたことに後悔している様子だった。
その表情を見て、レベッカが固唾を飲む。
――覚悟をしなければ、自分が死ぬ。
2人の表情は、それを認識させるのに十分すぎるものだった。
「ハーイ、ベッキーちゃん。先ほど振りね」
レベッカが曲がり角を過ぎた頃、マグライトと遭遇した。
「あれ。あなた、その顔どうしたのよ」
マグライトの顔を見ると、先程までなかった右頬を覆う湿布が貼られており、左手首にも包帯が巻かれていた。
「ああ。気になさらないで。些細なことよ」
「まあ、そうね。私にとって、あなたの怪我なんて何の関係もないもの」
「建前なのに、釣れないのね。もしかしたら関係あることかもしれないのに」
「何が関係するってのよ」
「ふふっ。秘密ですわ。これも淑女の嗜みですもの」
マグライトの卑しいほど憎たらしい笑顔に、レベッカが呆れ顔で返す。
レベッカにとって、今は自身の気持ちを落ち着かせるために必要な時間。マグライトの戯言に付き合う余裕なんてなかった。
それを知っていてか、あえてレベッカに対してマグライトが絡んでくることにため息が漏れる。
「先程の2人、珍しく第3ピリオドは『蕾』と『種無し』が勝ち抜いたようですわね」
「それって……」
「ええ。『華』が魔力切れを起こして自滅したようね。そこを最後の『種無し』が刈り取ったってとこかしら。第1に続いて、連続して期待を裏切られた観客が――『
――『マキナの神』。大穴を繰り返す、期待を裏切る神の悪戯。この国において、因果を曲げるほどの不可視の存在。
決して見えないはずなのに、大衆の予想を覆すときに息吹を授ける神の所業。
それが、第3ピリオドで出現した。レベッカとしては、それは自分のときに現れてほしい神頼みが、すでに消費されてしまったと、より一層ため息が出る。
「――それではレベッカ様。第4ピリオドが終了するまで、こちらでお待ちくださいませ」
ゴンザによって通された部屋は、『特別控室』と銘打たれた空間だった。中には怯えた様子の令嬢が2人すでにおり、レベッカで3人目のようだ。
「ご苦労さま、ゴンザ」
「はぁあ?」
そう言って、――マグライトも一緒に控室に入ってくる。
「あんた、もしかして」
「ええ。ワタクシ
マグライトの満面の笑みが、レベッカの心を殴りつけた。
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