第50話 城主逃走
「大内義隆殿は、政府より尼子討伐の命が下っておる。よって、その配下である安芸武田氏の居城である佐東銀山城を我々が攻めるように、という書状じゃ」
居城では……あるのだが。
当の当主である武田信実は吉田郡山城の戦い後、尼子軍の退却と同時に、牛尾幸清らと共に出雲に逃亡してしまっている。
居城である佐東銀山城には、一族である武田信重が300余りの手勢で立て籠もるという状況である。
楽勝だ、と思う家臣も少なからずいる。
「窮鼠猫を嚙む、とも申す。我らも甘い気持ちで出陣することは許されぬ!」
元就は改めて厳しい声で言う。
なお、武田信実が佐東銀山城を捨てたのは二度目の事である。
一度目は安芸武田氏当主・武田光和が急死し、安芸分郡守護である若狭武田氏から迎えられ、その養子として安芸武田氏の当主となった時のことである。
武田光和の跡を継いで安芸武田氏9代当主となったものの、大内氏との講和を巡る家臣団の対立を解消できなかった。
ついに品川左京亮(安芸品川氏)が香川光景の居城八木城を攻撃するが、毛利方になっていた熊谷勢などの援軍を得た香川軍に、品川軍は撃退されてしまう。
この事態により、佐東銀山城から退去する家臣が続出したため、事態の急変に対して何の手を打つことができなかった信実も、佐東銀山城を捨て、出雲に逃亡したという。
「そんな当主で大丈夫なのか、安芸武田氏……」
悠月の一言に、松井も思わず苦笑いする。
「もっとも、生き残るのが第一なのだとしたらそれもやむを得ないのかもしれないね」
「家臣や民、そっちを大事にすべきだと思うけどな」
悠月が毛利家好きである理由はその点である。
「籠城しておるのは手勢約300、だが精鋭ぞろいと考えて間違いはなかろう」
「でなければ、すぐに城が落ちている状況でしょう」
「我らはより策を練るべきだとワシは考えておる」
元就は地図を広げた。
「ここに長楽寺があるじゃろう。まずはここを調略せねばなるまい」
「なるほど……」
「なぜ先に寺を?」
松井は控えめに尋ねた。
「もし、我らの動きを発見されたとして、鐘の音で知らされれば奇襲作戦は失敗するからじゃ」
「奇襲……」
松井はそれで納得した。
だが、どういった奇襲をかけるのか……。
悠月も松井も想像できなかった。
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