第35話 大内陣
兵の一人は東より大内軍がいるとされる防府へと向かった。
大内義隆自体も、頭崎城を攻め入る為に、防府へと出陣していたのである。
彼が辿り着いた時、もう既に陣は払われていた。
「大内殿はいずこじゃー!?」
兵はがっくりと肩を落とす。
「お主、どこのものじゃ?」
声をかけた若武者は、唐花紋の紋を掲げている。
「……毛利の手の物にございます」
男は優しく微笑んだ。
「私は陶隆房。大内殿の手の物にございます。大内殿は岩国へと向かわれておる。ともに参ってはいかがであろうか?」
「ありがたきお言葉にござる!」
兵は喜んで誘いに乗った。
一方、西から吉田郡山城を抜け出した兵は、岩国へと迷い込んでいた。
「殿も……、ワシが方向音痴と知っておろうに……。……むむ、あれは!」
大内菱、と呼ばれる家紋の旗印を偶然見つける。
「まさか、大内様の旗印か!」
兵は疲れも忘れて走り出す。
「大内様! なにやら走ってこちらに向かってくるものがおります!」
「うむ? 何奴じゃ?」
「ええと……、旗印を持っておりますな。一文字三ツ星です」
「毛利の手の者じゃ! 丁重に迎えよ!」
「大内様!」
ぜえぜえと息を切らせながら、兵が陣内に入る。
「よう参った。毛利の手の者だな。毛利元就から話は聞いておる」
義隆は鷹をスッと撫でる。
先に辿り着いていた鷹から、密書は無事受け取ったようである。
「これより、毛利に救援を送る。陶には内藤興盛らと共に10,000の軍勢を率いて吉田郡山城救援に向かってもらう」
「あれ?陶は……?」
内藤興盛は困ったように陣内を見渡す。
「遅参の段、御免なれ!」
陶と兵は大慌てで陣内に入る。
「お、お主! 無事であったか!」
「お主こそ、方向音痴なのによう辿り着いた!」
二人は握手で再会を祝う。
だが、吉田郡山城に向かう途中。
「ここは通さんぞ!」
尼子方が、やはり道を塞いでいるのであった。
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