第32話 寡兵の戦い方

数日間、尼子に動きはなかった。

その為、悠月は完全に油断していた。

「伝令―!」

朝から騒々しく叫ぶ声に、悠月はハッと飛び起きる。


「何事じゃ?」

「はっ! 尼子誠久と思わしき人物と多数の兵により、火が放たれております! 兵の数は、おおよそ1万にございます!」

「1万……。我らの手勢よりも多いか」

隆元は一瞬考える。


「いや、勝機はあるぞ!」

「父上!」

「我らが寡兵じゃから、と言って必ず負けるわけではない。ならば策で打ち勝つのじゃ!」

「いや、簡単に言いますけどね」

悠月は苦笑いしてツッコむ。

「でも、実際のところ寡兵でも策があれば、裏をかいて攻撃するとなれば、また話も変わってきますね」

徳寿丸が言う。

まだまだ幼子の彼が言うのだから、隆元も元就も悠月も面食らう。

「だって、あの日兄上と雪合戦してそうやって勝ったものです!」

「雪合戦……。ああ、確かにそうじゃったな」

元就は苦笑いした。

本当の戦と雪合戦のような遊びと、もちろん勝手は違う。

だが、理屈は合っているのだ。


「やはり、お主はワシの血を強く継いだ息子じゃな」

「父上!」

隆元も困り顔である。

「さて、隆元。徳寿丸も言うたじゃろう?」

「ええ。確かに、策さえしっかりしていれば寡兵でも確実に負けるわけではございませんが……、代償がやはり大きいかと」

やはり隆元は、兵の事もしっかりと案じている。

もちろん、元就も兵の事を軽んじてはいない。


「三隊に分ける、というのがワシの策じゃ」

「三隊、でございますか?」

「第一部隊に渡辺通・国司元相・児玉就光に兵500を預けて、城の西方である大通院谷から出た先で伏兵としたらよいじゃろう」

「はぁ……。確かに左様ですな」

「第二部隊として、桂元澄・粟屋元真などが率いる200人で、こちらも伏兵として青山に近い場所まで密かに南進させておけばよろしい」

「では本隊は……?」

元就は不敵に笑みを浮かべた。

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