第25話 元就と面談
悠月は数日間、攻撃の止んでいる状況に警戒していた。
くるみや、女子供ですら近寄るのをためらうほど、神経を張り詰めていた。
「そう気を張りすぎるものではないぞ」
隆元はそっと悠月に話しかける。
見かねて、隆元は悠月を元就の元へ連れて行く。
「どうしたのじゃ、隆元」
「新参の者が、神経を張り詰め過ぎているようでして。父上であれば、何かと相談にも乗れると思い、連れてまいりました」
「ふむ……」
元就は、そういうといきなり餅や酒を持ち出した。
「お主は酒を飲むか?」
「たまに。ですが、今は気分ではありません」
「ならば、わしと餅を食うてくれまいか?」
「はい……」
悠月は、その様子に思い出す。
資料館だっただろうか、元就に対してこういった逸話があるのだと。
元就はいつも餅と酒を用意し、地下人などの身分が低い者達まで声をかけて親しくしており、家来が旬の花や自家製の野菜、魚や鳥などを土産に元就の所へ訪れるとすぐに対面して餅か酒のどちらかを上機嫌で振舞った。
家来が持ってきた土産はすぐに料理をさせ、酒が飲めるかそれとも飲めないかと尋ね、もし酒が欲しいですと答えたら「寒い中で川を渡るような行軍の時の酒の効能は言うべきでもないが、普段から酒ほど気晴らしになることはない」とまずは一杯と酒を差し出し、もし下戸だと答えれば「私も下戸だ。酒を飲むと皆気が短くなり、あることないこと言ってよくない。酒ほど悪いものはない。餅を食べてくれ」と下々に至るまで皆に同じようにあげていた」と。
「なるほどのぉ」
元就と隆元は餅を食べながら、悠月の話を聞いていた。
「しかしな、未来と言うのはこの一瞬ですら変わることがある物じゃ。例えるなら、お主が今酒を望まず餅を食うておる今と、あの問に酒を所望すると回答するか、これだけで未来というんが変わるもんじゃ」
元就は優しく諭すように言った。
「確かに、それは微細の差ではありますが……」
「その微細の差が積み重なれば、違う未来、となっていくんじゃろう。とわしは思う。」
「あまり考えすぎると言うのも、体に毒じゃからな。我もそう思う」
「はい……」
悠月は、ようやく落ち着いてきた。
そうだ、未来と言うのは今から一秒でも超えたら未来なのだ。
それを改めて思う瞬間だった。
「ところで、餅のおかわりはいるか?」
「あ、じゃあもう一ついただけますか?」
「もちろんじゃ。若いもんはよう食っておけ」
元就は喜んでさらに餅を振る舞った。
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