第6話 日記の続き


次の週も僕は実家へと足を運ぶ。

足取りは重い。

夢の中で走っている時、足が思うように進まずに逃げている何かに追いつかれてしまうことが僕には多々あった。

今何かに追いかけられたら僕は確実に捕まってしまうだろうなと、そんなこと考えながら見慣れた道を歩いた。


昨日から日記を読んでしまった罪悪感と、続きが気になる気持ちが僕の中で戦っている。

とうとう決着が着かないまま実家へと来てしまった。


鍵を回し、中に入る。

本当は今日は車で来たかった。

しかし我が家の車は、週末は娘の習い事や買い物で妻が車を使うことが多い。

来週は子供達が妻の実家に遊びに行くので、車が使えそうだ。

重いものを少しでも早く処分したい。



「今日は洋服類をまとめておくか。」


洋服類は売れそうだったり、寄付できそうな物は捨てずに処分したいと思っていた。

徒歩では運べないので、今日まとめておいて後日車で運ぶ予定だ。


2階へと登り、和室に入る。

押入れと、クローゼットに洋服が入ってることを父が施設に入る時に知った。

ここから数枚の洋服を施設に持って行ったことがある。

クローゼットにあった父の一番お気に入りだったシャツは旅立つ父に着せた。


洋服を袋にまとめていると父がもうこの世にいないことを痛感してしまう。

悲しさが押し寄せてくる。


僕の思い出の中の父は口数の少ない人だった。

母の口数が多すぎるから、そう感じたのかもしれない。

すごく優しい人で、出張帰りには必ずお土産を買ってきてくれていた。

母の誕生日や結婚記念日にはプレゼントを贈ったり、2人で食事に出かけたりしていて愛妻家だったと思う。

僕が唯一父に酷く怒られたのは母を突き飛ばした時だった。

反抗期の僕と口うるさい母は何かと衝突していて、イライラしていた僕はつい手を出してしまったのだ。

父に怒鳴られ、殴られた。

もう一発僕を殴ろうとする父を間に立って必死に止めてくれた母を見て僕の反抗期は終わった。


どうして離婚したのだろう。

またあの疑問が僕の頭を支配する。

愛妻家だった父、誰よりも母のことを大切にしていた父。

次々と優しかった父の思い出が頭を巡る。


まとめた洋服の入った袋を手に1階に戻った僕は、またあの日記を手にしていた。

ツルツルとした黒の表紙が光っているように見えた。

まるで日記が僕を呼んでいるかのように。


「ごめん、でもどうしても知りたいんだ。」


父への謝罪を口にしながら、また日記のページをめくる。

やめなきゃと頭では思っているのに、どうしても手を止められなかった。







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本日の夕飯はカレーですか? enmi @enmi_o3

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