第34話

「……はい」

 その様子を見ながらハウスマンは、

「魔術も今までのものとは違うものが使えるようになった筈だ。気分はどうだ?」

「その……複雑ですね、今までとマナの使い方が全然違うので」

「どうちがうんだ?」

 シャーリーがじっとイネスを見つめてそう問えば、イネスは、

「今までの魔術は体内のマナを練り上げて放つ、シャーリー様も知っている魔術です。けれど新しく使えるようになった魔術は大気中のマナを集めて練り上げて放つので、使用するマナの量が全く違うんです。手加減しないととんでもないことになってしまいそうで……」

 そう自分の手を見つめながら、そう呟くイネス。

「ああ、私達はそれをゲルスドルフ式魔術と呼んでいる。まぁ私はあまり使えないけれど」

「どういうことです?」

「前にも言っただろう?私は等級は下級なんだ。したがって使える魔術にも限りがある」

 そう言いながら自分の爬虫類の皮膚になった手で首の左を指差しながらハウスマンは答える。

 イネスも首の左側にマフラー越しに触れながら「僕は……特級でしたね」と呟く。

「私の知る限り特級は君だけだ、他の者にも会ったが上級が最上位だったね」

「……僕は何をするべきなんでしょうか」

「…………好きな事をすればいいさ、ビンドハイムでは殺し合うのが生きる意味だったが、この世界では違うのだろう?私のように隠遁生活を送るもいいし、世界を巡るのもいい。やりたい事をやればいいさ」

「…………」

 その言葉にイネスは夕焼け色の瞳をハウスマンに向けると、ふふっと笑い、

「だったら今まで通り傭兵でもしましょうかね、人間のフリをして」

「君がやりたいのなら、そうすればいい」

「はい、そうします」

 そう二人の会話が一区切りついたところで、シャーリーが、

「あの、貴方に質問がある。嫌なら答えなくていい……今『神』は何人居て、名前を何というのか教えて貰うことはできるだろうか?」

「統治機構に報告かね?」

「ええ、そのつもりで」

「…………名前は答えない、後々面倒なことになると困るのでね。人数はいいだろう、今までは七人だったが彼が二人殺して、彼が覚醒した。それ以上は答えたくはない」

 シャーリーはうんうんと頷くと、

「それだけで十分だ、面倒な質問をして申し訳ない」

「いや、私がせめて中級だったなら名前を答えてもいいんだが、下級にはそれなりに覚悟のいる事なのでね」

 そう言ってはぁとため息を吐くハウスマンに、イネスは、

「その、質問ばかりですみません」

「いや、話をしにきたのは私の方だ、気にしないでくれ」

 そう言うとハウスマンは立ち上がって、

「さて、私の話したいことは終わった、君たちから他に聞きたいことは?」

 そう二人を眺めながら話す。

「僕はもう、特には無いですね」

「……もう一度来た事をヘルツェンベルグ統治機構に報告しても?」

「統治機構に話すのは構わないさ、私の住む場所さえ黙っていてもらえればね」

 それにシャーリーは頷くと、ハウスマンはコウモリの様な翼を広げて、

「それでは失礼するよ。また、会える機会があるといいのだけれどね」

「僕は会いに行きますね」

「そうか、楽しみにしているよ」

 イネスがそう言えば、目を細めて飛び立った。上空高くまで上がるとそこから北へと向かって小さな点になりながら去っていくのだった。

「……僕は、今まで通りでいいんですね」

「好きにすればいいって言っていただろう?イネスも好きにすればいいんだ『神』だとか気にせずにやりたい事をやればいい。私もそうするつもりだからな」

「でも一緒には連れていきませんよ」

 イネスのその一言に、シャーリーは「やっぱり駄目か?」と問えば「駄目です」と返ってくる。それに残念そうに肩を落としながら歩き出すシャーリー。それに続くイネス。

 そうして二人は丘を後にして王城へと向かっていくのだった。

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