第3話
三日後、イネスはシャーリーと共に王族専用馬車に乗ってクロシドライトの王都バストネスを目指していた。
今日は天候が悪く、淡く雪の積もる中を馬車は進んでいく。
先の大戦により荒廃した草も生えぬ焦土と化した大地に、大戦で使われ空を飛んでいたという金属の塊が茶色くなりながら地面に突き刺さる様に放置されている横を通ると、その隣にはまた別の形をした鉄の塊が群れをなして並んでいた。深々と降り積もる雪の中それらは茶色い大地と共に雪の白く覆われていくのだった。
三日前、シャーリーに
「……『神』を殺して欲しい、殺したい『神』が居る」
そう告げられて驚かなかったと言ったら嘘になるだろう。
「『神』を……殺す?」
「ああ、私には殺したい『神』が居る。そしてイネス、貴方はこの世界で唯一人『神』を殺すに至った人間だ。力を借りたい」
そう告げるシャーリーの瞳は真剣そのもので、冗談ではないことがひと目で分かった。イネスは震えそうになる声で、
「僕に、出来る範囲であれば」
と答えた。
「ああ、期待している。明日にはこのザイベリー首都のフロンデルを発つつもりだ。用意を頼む」
「分かりました」
何度も頷いて肯定するイネス。そうして味のよく分からない茶を飲み軽く菓子をつまんでいると、
「貴方の移送には結構面倒な手続きが続いてね、正直疲れたよ。ヘルツェンベルグ統治機構にザイベリーとの橋渡しを頼んだり、少々金品やクロシドライトの持つ利権をちらつかせたり色々手段を選ばずやってみたんだが、本当にギリギリになってしまって済まない」
シャーリーにじっと見つめられて何度も瞬きをしながら少々視線を逸らすと、
「いえ、結果的に命を助けられた身です、そんな文句言う資格はありません」
「そうか、なら頑張った甲斐があるというものだ」
そう言ってクスリと笑うシャーリーに、イネスはまた顔に熱が集まるのを感じながら味の分からない茶を飲むと、シャーリーも果物の乗った焼き菓子を手に取り頬張る。そして思い出したかのように、
「そういえば、年はいくつなんだ?」
「年ですか?二十九歳です」
「…………思っていたより歳上なんだな」
「この身長の所為で若く見られがちでよくナメられて……もう諦めてはいるんですが」
少々情けない気持ちになりながらも、そう言うしかないイネス。
そうして茶菓子をパクリと頬張りながら、イネスは、
「では聞いても良いですか?シャーリー様はおいくつで?」
「私か?十八歳だが」
「想像していたよりもお若いですね」
「よく年上に見られるよ、何故だろうな?まぁ、私ももう慣れてしまったものだ」
そうして茶と茶菓子を食べ終わるとイネスは席を立った。シャーリーは「まだ話したいことがあるが、それは夕食の時にしよう」と言うのだった。
その後イネスは別室へと案内され、シャーリーの部屋とは比べるまでもない程に狭い部屋に、イネスの持っていた荷物と一緒に入れられ、外から鍵を掛けられた。
それもそうだろう、この国は神を信仰する『ユージアル教』を国教と定めている国だ。神殺しの大罪人が快く迎えられるわけもなく、ただ牢獄とは雲泥の差であるこの部屋を与えられただけで満足する以上の事を望めないのだ。
シャーリーと別れて、どうしてあんなに緊張してしまうのかと考えるも、答えは出なかった。
とりあえずソファに腰掛けてはぁと息を吐くと、生きている実感を得るために頬を抓ってみた。勿論痛い。どうやら死後の世界の夢のようではなさそうだとイネスは確認すると、ずるずるとソファに寝転がった。
何故だろうか、シャーリーを見ると落ち着かない気持ちになるのは……と考えるが答えは出てこない。
そうしていると牢獄での暮らしの疲れだろうかウトウトとし始め、ゆっくりと眠りの世界に落ちていった。
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