赤い糸


 朝起きたら、小指に赤い糸が結ばれていた。


 寝起きの頭で、何?と思いながら、ぼんやりと朝支度を進めていたけれど、父さんも母さんも何も言わない。こんなに長い糸が俺の指につながっているのに。床に赤い糸が垂れているのに。

 さすがにおかしいと思った。弟にカマかけてみたけれど、やはり見えてはいない様で。えー、とは思いながらも、少しワクワクと浮足立った気持ちで学校へ出かけた。赤い糸を追って。


 非日常に慣れず、いつもよりだいぶ早い時間に家を出てしまったし。地面に垂れている赤い糸に従って、いつもとは違う道を行く余裕はあった。

 不思議と糸は歩くたびに短くなっているのか、歩く後には残らない。絡まらないとは便利だと、少し思う。

 赤い糸はずっと続く。いつもと違う通学路は、通学路のくせに人通りが少なかった。まだ早いこともあるが、確かに細い道だし人気はなさそうではある。

 やがて学校へ行く道とは少し離れた場所へ出た。けれど赤い糸は続いている。せっかくだしと、学校からは離れながらも、赤い糸を追って歩いていると、気づいた。


 俺とは違う学校の制服を着たひとりの女の子から、赤い糸が伸びている。


 お、と思い、少し心臓を跳ねさせながら歩く。女の子も俺と同じ方向へ歩いている。その先に続く、赤い糸を追って。

 俺は彼女がどうしても気になって、ちらちらとみてしまう。彼女も俺に気づいたようで、ちらちらとこちらを気にしている。けれど小指に結ばれた赤い糸なんて、しかも家族、その他通行人も見えてなさそうなものについて、初対面の人に話題に出すなんて。そんなの無理だ。ハードルが高すぎる。

 やがて俺らは並んで歩く。赤い糸は続いている。赤信号の前で二人立ち並ぶ。静かな朝の風景に、俺ら以外の人は見えない。俺と彼女の小指から、赤い糸が伸びている。赤い糸は地面に横たわってどこかへとつながっている。俺たちは互いを意識する。


 赤信号が青に変わる。二人は赤い糸を追って歩く。地面に横たわる糸を見ながら。



 そして、信号無視した車にはねられた。



 そんな感じで、転生をした俺たちは結婚した。

 多分こうして繋がる運命だったのだろうと、とりあえず納得することにしている。


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文集 ヨカ @Kyuukeizyo

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