言葉売り


 いらっしゃいませお客さん。

 ここは言葉屋。

 アタシは言葉売り。言葉を売るものにございます。


 言葉には値段がついている。低いものに高いもの。ま、売る相手によって少々値段は変わるがね。

 当たり前だろ。それなりの相手にはそれに相応しい、ちょいとお高めな言葉を。お前さんみたいなのには、まぁ、せいぜいこんくらいかね。これより上は売れやしない。お前さんにゃあ、勿体無いさ。


 ん?ここのやけに値段が低い言葉はなんなんだって?そりゃあ、使いまわされた言葉たちさ。


 かわいそうなことだ。ばかな奴らに使いまわされて、こんな値段になっちまった。


 だが物事には需要がある。それに則した値段にしないとね。

 もちろんこの言葉たちにもお高めのはあるさ。ただ相応しい人のために、ここに出していないだけ。

 きっとお前に買えはしないさ。


 ……。


 こんなところで買わなくても、無料で配っているところを知ってる、ねぇ。


 ……。



 お前さんばかだろ。


 その言葉は紛い物だぜ。偽物だ。

 その言葉に意味はない。中身なんて微塵もない。もはや言葉ですらない。


 そんな出来の悪いやつを使ってる奴はな。


 ……。



 勿体ぶるな?正しい言葉を使うんだな。アタシは勿体ぶってるわけじゃあねぇ。ちょいと言葉を選んでただけだ。


 狂うぜ。


 壊れる。縛られる。まぁ、他にもあるだろうが、どうせ碌なもんじゃねぇ。

 わかったか。物事には正当な対価を払わなくちゃあならない。言葉だって同様さ。なぜ違うなんて思ってんだか。


 お前みたいなばかなことを言ってる奴が、言葉の値段を下げていくんだ。


 あぁ、そうかわかってくれたか。ま、期待はしないが。今日はこんくらいで勘弁しといてやるよ。


 じゃあ、そうだな、お客さん。


 ここは言葉屋。

 アタシは言葉売り。言葉を売るものにございます。


 言葉には値段がついている。物事にはそれ相応の対価を払わなくちゃあならない。だから当たり前のこと。

 言葉に対価を払うことができて、お前さんは運がいい。


 さぁ、お客さん。

 アンタは一体、どんな言葉を選ぶんだい?

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