打ち切り作家の俺の風呂場に銀髪エルフが湧いた件

σ懐古霊σ

第1話 全裸と、アヒルと、エルフ

 ​「風呂場から音がする……」


 ​2年生の新学期が始まる前日の夜。黒白真白くろしろましろは、人生の「フィナーレ」を迎えていた。春休みの課題という名の巨大な壁を、深夜24時ちょうどにようやく打ち倒した直後だ。脳細胞は使い古された消しゴムのようにスカスカで、体は今すぐ水平運動を求めている。せめて風呂に入って身を清め、賢者モードで眠りにつきたい。

 ​俺は風呂場に入ろうと服を脱ぎ捨てたところで、その「異変」に気づいた。曇りガラスの向こう、半透明のドア越しでもわかる揺らめく人影。そして、パシャリ……パシャリ……という、優雅で、それでいてどこか場違いな水音。この部屋に住んでいるのは、俺一人のはずだ。


 ​「……疲れてるなー、俺。幻聴まで聞こえ始めたか」


 俺は勢いよく風呂のドアをバンッと開けた。

 ​途端、凛とした、鈴を転がすような声が響いた。


「わっ、あ、貴方誰よ!」

「へ?」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ​間髪入れずにの悲鳴が響く。

 目の前には、透き通るような白銀の長髪を湯船にたゆたわせた絶世の美少女が浸かっていた。ブルーサファイアのように眩く、深い青色の瞳。彼女は、俺が100均で買ったお気に入りの「アヒルくん2号」を両手で大事そうに握りしめている。

 ​

「あ、あなたこそ誰ですか!? あとアヒルくんを離せ!!」


「あ、あなたこそ誰よ! 自分のキノコを丸出しにして突撃してくるなんて、この世界の挨拶は随分と原始的なのね!」


 少女はすぐさま風呂から立ち上がり、俺と同じように右手を突き出す。

 ​しかしそこで、ある事実に気づく。少女の真っ白な裸体が完全に露出したのだ。


「今のは誤解だ! 不可抗力というか……見てないから!」


「ふーん……」


「その疑わしげな目はやめろ! 本当に銀色の髪がカーテンみたいに隠してるし」(そもそも髪越しだと膨らみもよく分からないレベルだしな……)


 ​「今、絶対失礼なこと考えたでしょ。私の魔力センサーがビンビン反応してるわよ」

 少女の尖った長い耳が、ピョンと立つ。彼女はマシロ・L・エリュシオンと名乗り、異世界から飛ばされてきたエルフだと言った。


 ​「私たちの部族には絶対の掟があるの。『異界の地にて最初に肌を合わせた者、あるいは自身の秘部を晒した相手は、星が定めた伴侶である』。

 これ、私の村の長老が言ってたわ。今思い出したけど」


「……は?」


「名前も同じ『マシロ』。これ、もう逃げられないわよ。運命の神様が『このキノコの持ち主と結婚しろ』って言ってるようなものだわ!」


 ​彼女はニヤリと、邪神のような不敵な笑みを浮かべた。俺の、地獄のような2年生が、今幕を開けた。

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