平和な国の道徳の授業
小学校の一室。
小学6年生の教室。
給食の時間。
早々に食べ終えた私は、
綺麗な赤い布張りの表紙の、海外のファンタジー小説を読んでいた。
担任がそれを指して声高に言う。
「なんだその本。お前、魔法学校のは読まないくせに!おーい、いいかお前ら、この本読んだら此奴みたいになるぞ、読んだらだめだぞ!」
22人の児童がどっと笑う。
笑っていないのは、読書していた私だけ。
午後一の科目は道徳の授業。
平和について考えよう、
黒板に担任がテーマを書き付ける。
喧嘩をしないこと!
いじめをしないこと!
みんなと仲良くすること!
そのとおり、素晴らしい、素敵な意見だ
担任が褒める。
意見を言った児童とその仲良しグループが盛り上がってる中で
担任がニヤニヤして、
「おい、お前はどう思う?ちゃんと言えるかー?」
私を指す。机にしまってある赤い布張りの本を私は撫でた。
「あ、三馬鹿のハカセだー」
と教室中が笑う。
「平和っていうのは、戦争が起きていない時のこと。次の戦争が起こるまでのもしかしたら、つかの間の平穏」
私は言った。
教室がシラケて静まりかえり、担任が一拍の間をおいて笑い出す。
「まーた、変なこと言ってるなお前は!これだから流行遅れのダサい奴って言われるんだぞ」
また、教室に笑いの渦が起きた。
教室の隅の壁には、さすまたが掛けられている。
国内のよその学校で、痛ましい殺傷事件が起きて以来、置かれるようになったものだ
私は家に帰り、公共放送のニュースを観る。
数年前に外国でビルが崩壊して以来、
遠くの地の爆撃の報道が多い。
今日も、画面では
遠い国の砂漠の夜空が
炎で真っ赤に染まっている。
その画面に速報が流れる。
国内の小学校で、1人の児童が亡くなったらしい。
クラスメイトが、諍いの果てに、手を掛けたのだと。
それでもたぶん、明日の教室は、
今夜の民放の歌番組初登場の、アイドルの話題で持ちきりだ。
平和ってなんだろう。
平和は保つ努力をしないと保てないんだよ。
戦争は防ぐ努力をしないと防げないんだよ。
私にとっては。
担任が敵。クラスメイトが敵。
教室は戦場だった。
思想、同調、抑圧、排斥、暴力は常にあった。
彼奴等の言う平和は、あまりに虚しい。
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