第6話
「あのね、私、ときどき思うの」
頂上付近の東屋で休憩しているときに、彼女が口を開いた。
「本当はみんなわかってるんじゃないかって。みんな、心の中では私のことを人殺しだと思ってるんじゃないかって」
彼女は向こうの山肌を眺めたまま、決してこちらを振り返ろうとはしなかった。その声は喉に力を込めているようで、細かく震えていた。
「そんなわけない。そんなこと誰も思ってないって」
「あれから人の目が気になってね、人に見られるのがどうしても怖いの。非難されそうで、それか、復讐されそうで。でも、何よりも、自分の目が怖い。自分が自分に向ける目。それってわかる? 私、本当に後悔してるのよ。何か一つでも違っていれば、って思うの。班分けが違っていれば、自由時間の予定が違っていれば、別れる道が違っていれば……」
彼女は鼻をすすり、手で顔をぬぐった。
このままではいけない。僕は立ち上がり、彼女の肩を両手でしっかりつかみ、軽く揺さぶってこちらを向かせた。そしてできるだけ力強く、ゆっくりと言った。
「そんなたらればを考えてもどうしようもないよ。いい? ハルのことは仕方がなかった。あれは事故だ。みんな事故だと思ってる。警察も、先生も、同級生も。誰も人なんて殺していない。君のせいでも、僕のせいでもない」
「あなた、どこまでも自己中心的な人間なんだね」
「ちがう、俺は君のために……」
「やめて! やめて、もうそういうこと言わないで」
彼女は僕の手を乱暴に払いのけた。両目からはとめどなく涙があふれだしていた。
「自分の罪悪感から逃れるために私を利用しないで……。私はこの七年間、ずっと、ずっと、ずっとよ? ずっと耐えてきたんだよ。毎日毎日、今日も罰が当たるんじゃないかって、後ろ指さされてるんじゃないかって、びくびくしながら生きてきたんだよ。これが本当は全部夢で、学校に行ったらハルが何事もなかったように席に座ってたら、どんなにいいか、そのためだったらなんでもするのに、ってずっと思ってきたんだよ。それなのにあなたは何? 『君のせいでもない僕のせいでもない』って、誰のせいでもなかったらいいわけ? 誰のせいでもないことが証明できればハルは生き返るわけ? あなたには良心ってものがないわけ? もう二度と聞きたくないそのセリフ」
心外な怒りをぶつけられて、僕は一瞬ひるんだが、すぐに言い返した。
「じゃあさ、なんであのとき別行動しようって言ったの? これが違っていればあれが違っていればって、そもそも三人一緒だったら何の問題もなかったでしょ。やってることと言ってることがまったく支離滅裂。覚えてるよ、あのとき言い出したのは君だって。しかも、ほら、つい昨日か一昨日か、覚えてる? そんなに後悔してそんなに自分のことを責めるんだったら、なんで、なんでハルが素直にそうしてくれたとき、『ラッキーだ』なんて思ったの?」
「あなたのことが好きだったからよ!」
山をまるごと揺るがすような叫びだった。鳥たちがぱたぱたと音を立てて一斉に飛び立ち、遠くからやまびこが跳ね返ってきそうだった。でもそんなことはなかった。鳥は飛ばないし、やまびこは聞こえない。世界は十秒前と変わらず静寂に包まれていた。そして彼女は嗚咽の合間に言った。
「そんなこともわからないの? なんでそんなこともわからないの……? 自由時間にわざわざこんな山の中を選んだのも、あなたが……。どうしてこんなこと言わせるの…………」
うなだれて顔を両手で覆う彼女を、僕は黙って見守った。彼女が言ったことをうまく呑み込めなかった。彼女を見て、足元を見て、遠くを見て、それからまた彼女を見た。
引きつるように上下する上半身から、絞り出すように彼女は言った。
「でも、あなた、最後まで、最後の最後まで、自己中だったんだね」
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