第6話

僕は今、クラスのイベントで夜の学校に来ている。夜の学校を探検するそうだ。本当は来るつもりなんてサラサラなかったのだが、彼女に、もちろん来るよね?と言われて、断ることが出来なかった。

教室に集まって、ペアを決めるくじ引きをした。

(9。ペアは誰だろう?)

くじを持って当たりを見渡していると、彼女が後ろから覗き込んできた。

「あー!みーっけ!」

そう言って、楽しそうに笑った。

「え、君なの?」

僕が意地悪く、そう言うと彼女は頬を膨らませた。

「なにか文句でも?私は君で嬉しいよ?」

「あはは、冗談だよ。」

そんな僕たちを見て、クラスメイト達が驚いた顔をしていた。

(しまった。教室だということを忘れていた。)

「え?2人って仲良かったっけ?」

いつも彼女と一緒にいる女子が聞いた。僕が焦って、返事を考えていると、彼女が口を開いた。

「お母さん同士がね、仲良いんだー。ね?」

彼女がこちらを振り向く。

「う、うん。実は...」

「へー、そうなんだ!」

(よくもまあ、こんな嘘を咄嗟に思いついたものだ。)

僕が感心していると、彼女は得意げな顔をして、微笑んできた。


校内を回っている間、僕は新たな発見をした。

彼女はびびりだ。

初めのうちは、彼女も余裕な振りをしていた。

「君、怖いんじゃないの?」

「私が守ってあげてもいいんだよ?」

よく言ったものだ。さっきから、仕掛け役の人にビビりまくって、殴りかかろうとしたり、ちょっとした物音がするだけで、体をビクッと震わせている。そのくせに、別に怖くないと言い張るのだ。

「怖いなら、もっとこっちおいでよ。僕の後ろ歩いてもいいんだよ。」

「だーかーらー、怖くないって!!」

(強がりにも程があるだろ。)

僕が呆れていると、こちらを振り返っていた彼女の後ろでガターンと何かが落ちる音がした。その途端、彼女はこちらに猛ダッシュしてきた。僕はその勢いを受け止めきれず、後ろに倒れてしまった。

「もーやだぁ!帰りたいー!」

顔は見えないが、彼女は泣いているようだった。僕はその姿を見た時、心臓がとくんと落ちたようなそんな感覚を覚えた。

(なんだこれ。)

「もう、大丈夫だよ。もう少しだから、立てる?」

彼女は首を振った。

「もうちょっと。」

なんだろう。心臓がどうにかなってしまいそうなほど、ドキドキしている。


僕がこの感情の正体に気づくのはずっと後になってからだった。

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