第4話
6月も中旬、梅雨が始まった。屋上には屋根がないため、雨の日は教室で過ごした。
先日席替えがあり、彼女とは席が離れた。だから、休み時間席に座れなくて、居場所がないなんてことは無くなっていた。もう、屋上に逃げる必要はない。
屋上に行くことがなくなると、彼女と話すこともなくなった。心穏やかな彼女との時間がなくなると思うと、少し寂しいが、元々関わることのないはずの相手だった。少しの間でも同じの時を過ごすことができたことに感謝した方がいいだろう。
「ねえ、なに読んでるの?」
ぼーっと考え事をしていると、隣の前の席の女生徒が、僕の持っている本を指差しながら話しかけてきた。
(えーと、誰だっけ?)
「小説だよ。」
僕は本を覆っていたカバーを外して、表紙を見せた。
「へー、おもしろい?」
そう首を傾げた彼女の黒い髪の間から、名札が覗いた。ああそうだ、朝倉さん。
「うん。」
「そーなんだ。読み終わったら貸してよ。」
朝倉さんは、顔の前で手を合わせてた。
「いいよ。」
その時にふと前を見た時、吉田茜と目が合った、気がした。なにか怒っているのか?それとも悲しんでいるのか?よくわからない顔をしていたような気がする。
僕は数日後、読み終わった本を朝倉さんに貸した。
「あ!ありがとー」
朝倉さんは、嬉しそうに受け取り、早速読み始めるのかと思ったら、また、振り向いた。
「山田くんっていつも本読んでるよね。他にもおすすめがあったら、教えてほし...」
「美羽ちゃーん!」
朝倉さんが話している途中で、吉田茜が飛んできた。
「あのね、あのね、えーと、なんて言おうとしたっけ?」
彼女は慌てた様子で朝倉さんに話しかけていた。
「もー、落ち着いて!どーしたの?」
朝倉さんは楽しそうに笑いながら彼女の話を聞いていた。
その時だった。彼女がちらっと僕を見る目がとても怒っているように見えたのは。きっと気のせいではないだろう。この前も同じような目をしていた。僕は彼女を怒らせるようなことをしてしまっただろうか。
どちらにせよ、屋上へ行くことはもう、なさそうだ。雨の降る窓を見つめて、僕はそう思った。
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