第3話

僕が目を覚ますと君はそこにいなかった。

(やられた...)

君はよくこういったイタズラをする。5限目が終わるまで本でも読もうと、開いた途端、ひらりと何かが舞った。

『おはよう!気持ちよさそうだったから、起こさないであげたよ!』

無地のメモ用紙に彼女の丸っこい字でそう書いてあった。

(ほんとかよ。)

初めは何かと突っかかってくる君が面倒だった。今までにもそんな人は何人かいたが、しばらくすると関わろうとしなくなる。彼女もその類の人間だと思っていた。だが、違った。僕がどれだけ冷たくあしらっても、君は僕から離れようとしなかった。不思議に思いながらも、僕自身も彼女といるのが心地よくさえ感じてきている。


チャイムがなった。5限目が終わったみたいだ。

パタパタパタパタ

のろのろと下りる準備をしていると足音が聞こえてきた。

「おっはよー!」

君が満面の笑みで飛び込んできた。

「...もう昼だけど」

「寝てたじゃーん」

君はわざとらしく腕を組んで、頬を膨らませて見せた。僕はそれがおかしくて、笑ってしまった。君は僕が笑うと少し得意げな顔をする。


教室には僕が先に戻った。

僕達は教室では他人のフリをする。特にそんな約束をした訳でもないし、ルールがある訳では無い。ただ、お互いにその方が楽だと判断したのだろう。

僕が戻って来て、数分してから、君は教室に戻ってきた。

「もー!どこ行ってたのー!」

「なあ、今さ、こいつがさー」

僕の時とは違って、あらゆるところから声が飛んでくる。さすがはクラスの人気者だ。彼女はそれぞれの話を順番に、そして丁寧に答えていく。彼女が好かれる理由はきっとそういうところにあるのだと思う。僕にはない才能を持つ彼女を僕は尊敬している。

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