16 ラノベの挿絵
*まえがき*
注:このエピソードは本作の挿絵は掲載していません。紛らわしくてすみません。
***
瑞季は沢山ある本の中から一冊の本を取った。ページをペラペラと捲る。
瑞季が手にしたのは新作のラブコメだ。タイトルは『幼馴染みのわたしじゃダメですか1』。あらすじはずっと好きだった学校一の美少女、秋葉に告白したものの、フラれてしまい、その後幼馴染みである可奈子に次から次へとアプローチされ、迫られるというもの。可奈子が現れた事により、秋葉の心境にも変化が……。そんな面白そうな話を瑞季は今、読んでいる。
10分くらい経った頃。
瑞季は本を閉じた。
「まぁ、いいんじゃない? 普通に面白い」
「普通に面白いって……それ俺が先に読むはずだったんだぞ! 何勝手に読んでんだ」
瑞季は口を尖らせ、俺を見た。悪戯に何かを企むような顔をして。
そして一瞬にして表情を変えた。
「幼馴染みの私じゃ物足りませんか?」
と上目遣いで問われた。
いきなりのメンタル攻撃に後退り、怯む。上目遣いでそんな事問われたら、例え幼馴染みでもドキドキするだろ。
「なっ……何言ってんだ、急に。物足りないって何? 物足りてるよ。瑞季は瑞季だ、うん」
「じゃ、じゃあこんな私と付き合ってくれる?」
「ちょ、ちょっと待てよ。心の準備が……瑞季、俺にそんな恋愛感情持ってたんだな」
「ばーか。冗談。幼わたのセリフ、再現しただけよ。すっかり本気になっちゃって」
「なっ、何だよ。心臓に悪い」
セリフを再現したとの言葉を聞いて、安心し、我に返った。
しばらくは幼わたの話が続く。
「10分でほんとに読めたのか?」
「ええ」
「にしてもここの構図ミスってるわね」
ミスってる!? プロの作家相手に何言ってるんだ。
「構図がミスってるって、ここのシーンが変って事か?」
このシーンは秋葉と主人公が喧嘩して秋葉が泣きながら逃げ出すシーン。大変ハラハラするシリアスなシーンだ。ここにミスがあっては大問題だ。
因みにこのシーンはまだ読んでいない。
「秋葉の頭、廊下と比例してないでしょう。頭が大きすぎて、変だわ」
絵の事かよ! てっきり文章の事かと思った。
確かに。瑞季の言う通り、向かってくる秋葉の頭が遠近法の影響なのか分からないが、大きすぎる。顔は可愛く描けてるけど、違和感がある。このイラストレーターさんは新人だ。その事を瑞季は知らない。
「そうだな。確かにおかしい。でもこのイラストレーターさんは新人さんだ。優しくしてあげて」
「それなら私が見本を描くわ。ちょっと待ってて」
そう言って紙とシャーペンをリビングから持ってきた。
そうして瑞季は絵を描き始めた。
俺は見ちゃダメと言われているので、そっぽを向く。しばらくは沈黙が続いたが、俺から口を開いた。
「……瑞季は絵を読んでたんだな。絵だけって言う先日の発言も納得がついたよ。イラストの参考にする為にしてたんだ」
「そうだけど。絶対に見ちゃダメだからね!」
頷く。
「完成したら見ていいのか? それともダメなのか」
「どっちもダメよ」
「えーそれ意味ねーじゃん」
いじける。
「あ! そうそう、理玖に見せたい絵があるの。これ見て待ってて」
瑞季が俺に見せたい絵。瑞季の絵を見るのはこれが初だ。どんな絵なんだろう……
瑞季の絵を楽しみにしていると一枚の画用紙を差し出された。
「これは……俺?」
「そうだよ。幼稚園の時にあんたの人物画描いてバカにされたから、見返す為にイラストレーターになる夢を持ったの」
幼稚園の時に見た事があったらしいから瑞季の絵を見るのは初じゃなかった。でも、覚えてない。
「そ、そんな俺の過去の発言を夢に繋げるなんて、大層な事、しなくても……」
「私がなりたいって言ってんだからいいの!」
それはそうだな。
「うまっ! 実際の俺の容姿を三倍美化した感じだ。線もシャープで見やすい。しっかり描けてる」
「それでこっちが11年前、あんたにバカにされた絵」
「ごめんなさい……」
俺は小さくなり、謝った。
「今謝られても……もう遅い」
そしてまた幼わたの話題に戻った。瑞季は黙々と……ではなくお喋りしながら楽しく描いている。
「秋葉に告白してフラれたのに、可奈子に告白されたらそれもフるんだよね。主人公まじ意味分かんないわ。変な三角関係っ」
「ちょ、ちょネタバレ! 俺読んでないの忘れてない?」
「あ、すっかり忘れてたわ。ごめん」
「お、おいー勘弁してくれ」
「で、結局は秋葉と結ばれるんだよね。幼馴染み
瑞季は全くもって反省していない。反省という言葉を知っているのか。
「さっきの話、聞いてたか? もうお前のせいで読んでないのに話大体分かっちゃったよ」
人のせっかくの楽しみが……!
失われた事にショックを受けていた。
それから5分後。
「やっと完成したー!」
見せびらかす事もなく、喜びの声を上げる瑞季。
「
「何で妹限定なんだよ! 俺にも見せろ」
「恥ずかしいから。べー」
断られた。
廊下から声が聞こえてきた。瑞季と妹の声だ。
「わーめっちゃ上手! もうイラストレーターじゃん。前より上手くなってる!」
「ありがとう。理玖にも見せてくる」
え? 今見せてくるって言わなかった? 見せてくれるのか?
瑞季が帰ってきた。
「美桜ちゃんから褒められたから特別に」
それは構図もしっかりした巧みな絵だった。秋葉の顔も可愛く仕上がっている。全てが完璧だった。
「やっぱり幼わたのイラストレーターさんの絵より瑞季の絵の方が違和感なくて良いな。これは完璧じゃないか?」
「ありがとう。でもまだまだよ」
まだ上を目指したい心境だった。
それからも瑞季のデッサンは続いた。
「あ! ここのシーンもいいかも!」
今度は別の本を取り出した。
それは読んだやつだから、別に問題はないが。
「髪は段々細く」
「目元ははっきりと」
「服のシワはなるべく自然を意識して」
そんな事をぶつぶつ呟きながらすごく集中して描いていた。俺の声は瑞季の耳には届かない。
「ここの挿絵欲しいかも! よし、描こう」
今度は挿絵が無いシーンの絵を描き始めた。
しばらくして。
「ここのシーン、これでどうかな?」
急に瑞季が問うてきた。
それは花火の下でヒロインが振り返るシーン。浴衣姿のヒロインがとっても美しい。表情も絶妙なバランスを保っている。
「良いと思う。この作品のイラストレーターさんに寄せてきたな。表情も読者の胸がキュっとなる印象で最高だと思う」
「うん。私も良い出来だと思ってる」
瑞季は沢山ラノベを読んで絵を描いている。不意に瑞季が頼み事をしてきた。
「あのさ、文章書いてよ。そしたら私が挿絵描くからさ」
一瞬、頭がフリーズした。脳内がぐちゃぐちゃして混乱した。暫しの間を置いてから。
「それは無理だよ」
「えーそう言わずに。いつでもいいからさ」
「じゃあ考えとくよ」
すると生き返ったようにぱあぁっとした笑顔を浮かべた。よっぽど嬉しかったらしい。
それから20分ほど経った頃だろうか。
「疲れちゃった。息抜きにゲームしない?」
さすがの瑞季も疲れたらしい。そりゃあぶっ続けでこれだけの枚数描けば誰だって疲れるわ。瑞季はすごい方だ。
「俺はいいよ。じゃ、やろっか」
そうして俺はカセットを用意し、TVに取りつけた。今回は得意な対戦系のゲームをする予定だ。瑞季には負ける、気がする……。
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