米粒の妖精さん

仲仁へび(旧:離久)

米粒の妖精さん



 全部、食べれないとさ。


 ご飯粒を残してはいけません。


 いつもそう言ってくる。


 僕のお母さんは、うるさいんだ。


 でも、ぜんぶは食べられないよ。


 だからちょっとくらい残してもいいじゃんか。


 僕は少ししか食べられないんだ。


 お母さんは、


「農家の人が頑張って作ってくれてるのに」とか、


「食べられるだけでもありがたいのに」って、


 言うけど、食べられないものは食べられないんだ。


 だから僕が、食卓のテーブルから離れるのはいつも最後。


 ご飯が全部食べれるまで、席を立ってはいけません。


 だって。


 ご飯いやだな。


 美味しいご飯は美味しく食べられる。


 だけどたくさん食べたら美味しくなくなる。


 いつか食べたくなくなっちゃうよ。


 そしたら、器に残っていたご飯粒が喋り出した。


 それは、お米の妖精らしい。


 お米の妖精はしたり顔で「うんうん分かるよ、大変だね」と言ってくる。


 お米に言われてもな。


 でも、お米は自分のペースでお喋りし続けた。


「いただきますなんて言われても、僕達はいただかれるためにうまれてきたわじゃない。生きるためにうまれてきたわけだし」


 お米だって大変なんだな。


 テレビ番組とかで小さな動物が弱肉強食で大きな動物に食べられたり、家畜が食肉に加工されたりするのを見てると、可哀そうだなって思う。


 誰かが誰かを食べたり食べられたり、そういうのなくなっちゃえばいいのに。


 でも、現実には無理なんだよね。


 そんな事言ったら、「何馬鹿な事言ってんの」って顔されるだけだし。


 お米の妖精は「だから食べれなかったら食べなくてもいいよ。ボクたちは恨まないさ」


 そういったんだ。


 僕は意外に思った。


 大人は全部食べる事が礼儀だって言ってたから。


「そりゃ、お腹いっぱいでもないのに、食べ残されたらむかっとくるけどね」


 と、お米の妖精さんは続ける。


「食べる食べないを決めるのは自由さ。誰かに強制したりされたりするものじゃない。君はもっと楽にかまえたまえ」


 そんな事を言う人(人じゃないけど)、今までいなかった。


 皆命を大事に、恵みに感謝しなさいっていうばかりだったから。


 いいのかな。


 食べれなかったら、食べたくなかったら無理に食べなくてもいいのかな。


「少なくとも僕は責めやしないさ。好きにすると言い」


 そういったお米の妖精は、それきり何も喋らなくなった。


 普通のお米に戻ってしまったようだ。


 それから、お母さんがやってきていつもみたいに怒ったけれど、あんまり悲しかったりむっとしたりはしなかった。






 大きくなった僕は、できたばかりの子供にいただきますの仕方を教えていた。


「ほら、手をあわせて。いただきますだよ。いただきます」

「やー」


 僕に似たのか、この子はなかなか少食だ。


 妻はよく食べるから、僕のせいかもしれないな。


 ちょっとだけ申し訳なくなりながらも、僕は続ける。


「食べなくてもいいからいただきますはしなさい」

「やー」


 やれやれ、先は長いな。


 苦笑しながら僕は子供に話しかけていく。


 大人になった僕は、我が子に食べる事を無理強いする事はしないようにしていた。


 だって、食べたくても食べられない気持ちはよく分かるからね。


 でも、いただきますは忘れないでいたいと思っていた。


 僕達は何かの命を奪っている。


 相手はそれを望んでいないだろうし、感謝されたいと思っているわけじゃないだろう。


 だから、これは僕達自身が「誰かに生かされている」という事を忘れないためにだ。



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米粒の妖精さん 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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