第37話 懇親会と、、、

「どうしてこうなった、、、」


総士郎は呟いた。


「うぅぅ、エキニヤのカップが〜お気に入りだったのに〜」


総士郎の右手を掴んで離さないリナは、昨日、お気に入りのカップを割ってしまったらしい。


その色艶と使い勝手がどんなに良かったかを涙ながらに語っていた。


「ソウシロウは〜いいヤツだな〜。ネコの置物買ってくれたもんな〜」


左手はセスタが掴んでいた。


ネコはかわいい。ネコのベーゴマが売れて欲しい。ネコの置物をもっと作りたい。みたいなことを言っていた気がする。


「にはははは、ソウシロウさんはいい子ですね〜」


そして、椅子ごと後ろに移動してきたササリアはひたすら総士郎の頭を撫でていた。




話が終わった後に、リナが


「セスタもこれから仲間になるんだし懇親会しましょ!」


と、言うので、みんなで早めの夕食の買い出しに出かけたのだ。


そして、少し豪華な食材を手に入れて教会の離れに夕方前に戻った。


その時点までは総士郎も十分に警戒し、酒が持ち込まれないように、それとなくみんなを誘導した。その結果、酒は持ち込まれてないはずだった。


しかし、懇親会が始まりしばらく経つとなぜかリナが総士郎の右腕を掴んできた。


何かおかしいと思いササリアの方を見ると


「今日はとっておきを出しちゃいました、にはははは」


と言って中くらいの徳利とっくりを手元に置いていた。


蒸留酒だった。


気が付くと、味と香りは薄いのにアルコールだけは強いブランデーに少し似た酒をササリアとリナはストレートで、セスタはぶどうジュースに混ぜて飲んでいた。


「嫌な予感しかしない」と、一度、自分の部屋に逃げたのだが、そんな総士郎をササリアはお姫様抱っこで席に連れ戻したのだった。




「買おうと思ってもね、もうどこにも売ってなくてね、金貨10枚出したって買えないのよ。この街では艶のあるカップは作れないしね。もう、あんないいカップは手に入らないのよ、うぅぅ、、、」


「カップか〜、今度、アタイが割れない鉄のカップを作ってやるよ〜。ソウシロウがいればいい鉄で作れるしな〜。鉄だから艶々だ〜」


「う〜、艶々、艶々いいわね〜」


「そう、艶々だ〜」


総士郎を挟んでセスタがリナの相手をしている。


しかし、ティーカップを鉄で作っても熱くて持てないと思う。


「ソウシロウさんの頭も艶々にしちゃいましょ〜、にははは」


ササリアの頭を撫でる手が加速する。そろそろ洒落にならないのでやめて欲しい。


「それもいいわね。タコの足で艶々にしちゃいましょ」


今度はササリアの発言にリナが答えた。


「タコってこれか〜。美味いしいよなタコ」


セスタはタコの干物を戻してじゃがいもと一緒に煮た煮物に手を伸ばす。


タコはたぶんあの巨大タコだ。一切れがやけに大きい。


「そうよー。私、ひどい目にあったんだから、ソウシロウもニュルニュルになっちゃえばいいのよ、ニュルニュルに」


いつの間にか艶々はニュルニュルになっていた。


「ササリアは料理が上手くていいよな〜。ウチ、かーちゃん料理得意じゃなくてな〜羨ましいゼ〜」


「にはは〜、ありがとうございますー。セスタさんもいい子ですね〜。あーんしてあげちゃいます。はい、あーん」


「あーん」


セスタがササリアにあーんして貰う。


総士郎の頭からササリアの手がやっと離れてくれた。


「う〜、美味うまい!楽しいな〜。アタイ、こんなだし、鍛冶ばっかりやってたからさ、あんまり人と飲んだりってしたことなくてな〜。料理も美味いし、酒も美味いし、楽しい!ササリア、あーん」


ササリアに煮物を食べさせて貰っているセスタは上機嫌だ。


ちなみに今、飲んでいるのは酒ではなく、ただのぶどうジュースだ。


総士郎がさっき隙を見てすり替えた。


セスタはロウダンが待っているだろうし今日中に家に送り届けなければいけない。


「タコは、ニュルニュルは嫌なの〜」


「リナさーん、好き嫌いは駄目ですよ〜。はい、あーん」


ササリアは今度はリナに煮物を差し出す。


「美味しいわ、じゃがいも」


何故かタコじゃなくてじゃがいもらしい。


「ついでにソウシロウさんも、あーん」


抵抗してもひどい目に合いそうなので、おとなしく口を開けて差し出されたタコを食べる。


うむ、美味い。


「にゃはは、ソウシロウ、リナと関節キスだぞ」


セスタにバシバシと背中を叩かれる。


リナの前に食べたのは自分だということは忘れたらしい。




そんな感じのカオスで楽しい飲み会を続けていると右腕を掴んでいる力が少し弱まった。


「ニュルニュルはもういや〜」


リナがテーブルに突っ伏している。


どうやら力尽きたようだ。


「リナさーん、寝ちゃったんですかー。しょうがない、おねーちゃんですねー。いい子、いい子〜」


それに気づいたササリアがリナの頭を撫でる。


「ササリアもいい子よ〜」


リナは目を開けないまま答えた。


ササリアは微笑んで、もう一度リナの頭を撫でた。


「リナさんを私の部屋に寝かせてきますね〜」


ササリアはリナをお姫様抱っこし自分の部屋に運ぶ。


「じゃあ、しょうがない。ソウシロウ、あーんだな。あーん」


なにがしょうがないのか知らないがセスタは総士郎の方を向いて口を開けている。


「はぁ、しょうがないな、ほれ」


ソウシロウは小皿に出してあったザワークラウト、の隠し味に使われている唐辛子の欠片をセスタの口に突っこんだ。


「むぐむぐ、からっ!なんだこれ!?」


セスタは口を抑える。


「ほれ、水飲め。水」


総士郎が渡した水を受け取ったセスタは一気にあおった。


「なんてもん食わせるだ、ソウシロウ」


「少しは目が冷めたか?セスタはロウダンが心配するだろ。そろそろ帰らないと駅馬車がなくなるぞ」


「えー!?ヤダ!まだ、飲みたいし、食べたい〜。ササリア〜」


セスタはササリアを呼ぶが返事はない。


ササリアは自分の部屋にリナを運んだまま帰って来なかった。


総士郎は席を立ち、閉められていない部屋の扉から中を覗く。


「にゅむにゅむ、みんないい子で嬉しいです〜」


「柔らかいわ〜、でも悔しいわ〜」


ササリアの胸にリナが顔を埋める形で二人はベッドに寝ていた。


部屋の扉を閉める。


「ササリアもリナも寝ちゃったし、もうお開きにするぞ。続きはまた今度だ、また今度」


「え〜、マジか〜。しょうがないにゃ〜。絶対絶対、また今度だぞー」


そう言うセスタにもう一杯水を飲ませ肩を貸す。


まだ、日がギリギリある時間なので駅馬車は動いているはずである。


足取りが危ないセスタを送っていくことにした。




「にゃ〜ん、にゃ〜ん、にゃ〜ん」


背中におぶったセスタは何事かの寝言を呟いている。


柔らかい感触が背中に伝わる。けっこう大きい。


セスタは駅馬車に乗ってしばらくすると寝てしまった。


駅馬車の降車場に着いても起きないので総士郎がおぶってセスタの工房兼家に向かっていた。


「ロウダン、いるかー?お届けものだぞー」


工房の前で叫ぶ。セスタをおぶっているので両手が塞がっていた。


「誰だー?セスタかー?」


しばらく待つと出てきたロウダンにセスタを渡した。


「悪いな。後は頼んだ」


そう言って背中のセスタをロウダンに渡すと総士郎は工房を後にした。




日が沈み、駅馬車がなくなってしまったので歩いて教会まで帰ることにする。


日が完全に沈み、協会がもう少しで見えてくる頃、ふと立ち止まり空を見上げた。


月のない夜空はたくさんの星が輝いていた。


総士郎が知っている星座は1つも存在しない星空だった。


「あなたは、勇者、ですか?」


急に後ろから声をかけられる。


びっくりして振り返った。


頭からマントを被った背の高い人物が10メートル程離れた場所に立っていた。


「あな、たは、勇者、ですか?それとも、、、」


女の声?


そう思った瞬間にマントの人物が動く。


「がっ」


肺の中から全ての空気が無理やり押し出される感覚。


マントの人物が動いたと思った瞬間には総士郎は吹っ飛んでいた。


「あな、たは、勇者、ですか?それとも、、、あなたは、、、」


さっきまで総士郎が立っていた場所で拳を突き出していたマントの女はこちらを向く。


「私は、ユア、、、あなたは、、、」


もう一度、女が動いた。


マズイ


そう思った瞬間に、急に女の全身の力が抜ける。


そのまま総士郎の上に倒れかかってくる。


両手で自分を守るように構えていた総士郎は女の身体からだを慌てて抱き止めた。


「エネルギー、ロゥ、スリープ状態に移行します」


女は無感情な声で言う。


それ以降、女は全く動かなくなったのだった。


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