第2章 ラヴァンパイアとクラスの女王様
1. 女王様からの呼び出し
クラスの女王様に呼び出された。
このあいだ体育館倉庫に逃げ込んだとき追ってきた、待夜先輩ファンクラブのリーダーだ。
1年C組。同じクラスの五宮華恋さん。
くっきりした美人顔をひきたてる、うっすら書いた眉毛と、マスカラを塗ってくるりんしたまつ毛。
髪はライトブラウンに染めてカールしている。
中休み、ちょっと話あんだけど、と席に来るように合図されたとき思った。
あ、これ終わった。
脳内にはすでに、目をつりあげてあたしの胸ぐらをつかむ五宮さんがいる。
『あんた、調子乗ってんじゃないよ!! あんたのような地味な女が、あの待夜先輩に優しくしてもらいやがって! 宇宙飛行士になりたいだと? ほざけ。宇宙の果てどころか地の果てまで堕ちろ!!』
食らう強烈パンチ。太陽系の外側までふっとぶあたし。
脳内でそんな人生のエンディングを迎えるも、現実の五宮さんは、ぱっちり大きな目をつりあげることはなかった。
周りを憚って少し低くした声で、言う。
「……相談があんだけど」
ん?
クラスの女王様があたしに相談とは。
どういうこと。
頭が追いつかない。
ふいに、五宮さんが腰かけている机の上にある、ペンケースが目に入る。
きれいな深い藍と水色を繊細な模様のレースでしきっている。
小さな透き通ったビーズのチャームが惑星の形でついていて。
見るたび思うんだけどめちゃ好みなんだよなーあれ。
でも、どのお店でも見たことないんだよね。
巻いた髪を時々ポニーテールに束ねているけど、そこにつけているシュシュもカントリーふうのギンガムチェックにさくらんぼ柄とか、造花とレースのついたものとか、女の子らしい手の込んだデザイン多い。ほかの子の頭には見たことがないものだ。
きくところによると、ご両親ともに芸能人らしい。
さすがお嬢様。オーダーメイドとかなんだろうか。
「――三朝、あんた待夜先輩と仲いいんだよね」
……はい。
しっかり現実逃避してました。
はぁと、心の中で息を吐き出して五宮さんに向きなおる。
やはり本題はそのことですよね。
「仲いいというかなんというか」
完全に返事を終えないうちに、五宮さんは言った。
じゃぁさ、ここはひとつ、と。
「先輩との仲とりもってよ」
……はい?
眉間にかすかにしわをよせると、わかんないの? とかすかに整った眉が吊り上げられる。
「待夜先輩とつきあいたいから、協力してって言ってんの」
どっと力が抜ける。
五宮さんの用件は、おもしろくねーよのパンチじゃなかった……。
でもなんか。
ダメージがそれ以上なような。
そんなあたしの心中などもちろんおかまいなしに、五宮さんはきいてくる。
「あとさ、待夜先輩って、どういうとこがかっこいいの?」
……は?
激しくハテナマーク。
それをすでに感じているからつきあいたいんじゃないのか?
「三朝が感じたことでいいからさ。どういうとこがよかったか教えてよ」
解せないながらも、あたしはいくつか彼のかっこいいところを例示していく。
「あたしが感じたことだから、たぶん、ほかの子とはだいぶ違うと思うけど」
とは一応言い置いて。
それはずばり、天文部でのプロジェクターを使った展示。
あれほどまでのものを企画し、みんなをまとめあげて完成する力。
そして、宇宙の壮大さを知る、感性。
その一点を強調して語る。
「教室の壁に映し出された惑星たちの映像が、臨場感にあふれてたっていうか。まるで、ほんものの宇宙にいるみたいで」
そのほかにもある。
天体のことをわかりやすく講義してくれること。
一生のうちに成功をおさめなくても、未来の人々の光になれる可能性があると、図書室で教えてくれたこと。
傷を魔力で治してくれたこと。
それらは――はぶかせてもらった。
語り終えると、五宮さんはグロスの塗った唇をかすかにとがらせて、
「ふーん」
一言そう言った。
『ふーん』?
なんだろう。モヤモヤ、化学スモッグのように立ち上がってくるこの気持ちは。
「わかった。じゃ、これ、渡しといて」
そう言って手渡されたのは――手紙。
かわいらしい形に折られたその紙のその角は中心に向かって丁寧に折り込まれているのに、ちくりと胸を刺す威力があった。
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