僕と君の話

碧海 山葵

第1話 傷ついた僕

 突然だった。

 目をこらせば見える程度の傷。そんな傷だった。


 脇目もふらず前だけ向いて走っていた。

恨みを買うような事は

もちろんしていないはずだし、

自分で自分を傷つけるような事はできない。

誰が僕を傷つけたのか、

今となってはもう確かめることはできない。それでも傷のついた僕はもうきみと一緒にいることはできないみたいだ。


 思い返せば意外と短い付き合いだった。

 どこに行くにもいつも一緒だったからそんな気はしなかったけれど、出逢ってからたったの8ヶ月。

 最初は本当に危険で、

何をしでかすかわからなかった君は

いつも僕のことを前のめりに見つめてきた。


いいことがあった日はよく笑い、

悲しい事があった日は

声を押し殺して泣いていた。

僕はどうすることもできず

ただ見守っていた。


それでもきみは次の日になると

またいつものくったくない顔で僕をみる。

その顔をみては

少し笑ってしまっていたことに

気づかれていないと良いな、なんて思う。


二人でよく一緒に行った場所は海だった。

家から10分とすこし。

 

お気に入りの曲を流して、

いつもよりゆっくりと進む。

君が海に行きたくなるときは

決まって悲しい事があった

次の日だったから。


着いたらすぐ僕をおいて

裸足で駆け出していく。

どんなに寒くても海に足をつけて

ばしゃばしゃしながら楽しそうに

こっちを見る。



「こうすると明日には

すっかり忘れているんだよ」

急にしゃがんで

寂しそうな背中を向けたまま君は言った。


君を悲しませるものたちがどんどん波にさらわれてきえていく。


どうしても水が苦手な僕はそんな君の姿を焼き付けておくことしかできなかった。


別れまであとどのくらいの時間が

あるのだろう。

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