第53話 卒業


「キュイイーーン!!!」


 メロディアスの甲高い声が響く。


 大ダウンから起き上がると、ステータス画面のHPバー左上に怒りのアイコンがついた。


 怒り中は動きがランダムになるので、よく観察しなければならない。


 僕はヒロさんに『リリース』の準備をお願いした。


 メロディアスは前足を高くあげる。


【怪力の


 メロディアスは自分の攻撃力を上昇させた。今しかないと思い、


「ヒロさん! 『リリース』をお願いします!」


「了解! 『リリース』!」


 ヒロさんの放ったスキルでメロディアスのバフが全て消え去った。今がチャンス!


「みんな! 一斉攻撃です!」


 僕の掛け声でみんながそれぞれスキルを使用する。


「『燼滅紅牙』!」

「『アクアトルネード』」

「『ドラゴンスピア』!」

「『トゥインクルめくスター』」

「『ローズフレア』!」

「『フラッシュスピア』!」


 弱点である、火属性や水属性のスキルが次々と命中しメロディアスに大ダメージを与える。


 煙ではっきりと見えていないが、バキッ! っと何かが壊れた音がするのと、同時にメロディアスがダウンした。



 煙が晴れると、角が折れていた。みんなすごい! もう少しだ。


 そして、飛び上がったウェーンさんが斧で攻撃を仕掛けた。

 魔法の準備をしていた、トゥビーさんが遅れて、あの魔法を放つ。


「お待たせしました! 行きます! 『クライノート=シュトラール』!!!」


 トゥビーさんは高威力の魔法を放った。あの魔法は僕も受けたけど、かなりのものだ。

 

 突然、グーファーさんが、前に出て言った。


「俺も行きます。はぁぁぁっ!!!」

 

 力を貯めているのか? 姿勢を中腰くらいに低くし、鞘に収まっている剣を手に当てると、


「成功するかは分かりませんが……。これが今、俺にできる最強威力のスキル。フィナーレスキル発動!

 『幻影斬げんえいざん紫電しでん開闢かいびゃく』!」


 グーファーさんの目が鋭く光る。白と黒のオーラを纏い、その場から姿を消した。

 その刹那。目にも留まらぬ速さでメロディアスを切り裂いた。


 次にグーファーさんの姿を確認した時は、メロディアスの背後にいた。


 一瞬であの距離を移動したのか。それとも瞬間移動したのか。僕にも見えなかった。

 

 その一振りの剣はまさしく紫電。そして、かっこいい。


 メロディアスは倒れ込むモーションを見せた。


 僕たちは、メロディアスを討伐することができたのだ。


「はぁはぁ。……ふぅ。倒せたんですか?」


 グーファーさんが不思議そうに聞いてきた。その問いに僕が答えた。


「はい、グーファーさんのフィナーレスキルでメロディアスの討伐は成功しました! 最後のスキル、すごくかっこよかったです!」


「それは良かったです。ありがとうございます」


「トワくーん! やったね! 凄いよみんな! メロディアスを討伐しちゃうなんて!」


「「「うおおぉぉぉ!!!」」」


 僕を除いた男たちが、勝利の雄叫びをあげている。


 メロディアスはモーションを終えた後、光の粒子となって空高く消えていった。


 その場に、大きな一つの金色に光る宝箱があった。


 金色の宝箱っていうことは、かなりのレア物では? 


 みんなで、その宝箱の前に立つ。そして、ヒロさんは、嬉しそうにいう。


「ねぇねぇ! 金色の宝箱だよ! 凄い! さぁ、トワ君! 開けてみてよ!」


「え? 僕が開けるんですか? ここはエルフの里なんだし、エルフ族の人が開けるのが適切では?」


 僕の言葉にトゥビーさんが口を開く。


「いえ、こちらとしては元凶の討伐が出来ただけで喜ばしいことです。ドロップアイテムはみなさんでお使いください」


「トゥビーさんもそう言ってくれてるし、ここは、ギルドマスターらしく、ね?」


「で、では、開けさせて頂きますね」


 僕は宝箱を開けた。そこに入っていたのは、二種類のアクセサリーと数枚のカードだった。


 アクセサリーは現物のまま入っていた。一つは緑色で何かの葉っぱのような形をしている。後で詳しく見てみよう。


 そして、もう一つは、緑色のチョーカーみたいだ。そのチョーカーからは不思議な力を感じる。

 

 そして、数種類のカード。ドリーやメロディアスの素材だった。内容を見てみると、


 20000ドリー、音奏魔獣の大角、音奏魔獣の皮、壊れた楽器などがあった。


 これだけあったら、メロディアスの素材を使った、武器や防具などができるかもしれない。


 緑色のチョーカーを見た、ウェーンさんが驚きを見せた。


「そ、そのチョーカーは……。まさか……。トゥビー。これって」


「ん? チョーカーがどうかしましたか? ーーあ! それは! 『族長のチョーカー』!? 何でこんなところに?」


「族長のチョーカーですか? 近くで見てみますか?」


 よく分からないけど、エルフ族に取って大事な物なのかな? そのチョーカーをトゥビーさんに手渡した。


「間違いありません。お婆様がお探しになっていた、チョーカーです」


「トワさん、そのチョーカーはエルフ族に取って大切な物だと思います。

 そのチョーカーはトゥビーさんに渡してはくれませんか?」


 そう言ってきたのは、リーフィスさんだった。


「はい。もちろん。僕にはよく分かりませんが、探していた物なんですよね? 受け取ってください」


「いいのですか? ありがとうございます。このチョーカーは、ドリアード様がエルフ族の族長に相応しいと思った人物に贈られるという言い伝えのあるチョーカーです。

 これを見に付けている人がエルフ族の族長となるようです」


 めっちゃ、大事な物じゃないか。ドリアード様の贈り物がドロップアイテムになっているけど、一体どうなっているんだ? 

   

 族長のチョーカーとドリーをエルフ族に渡して、あとは僕たちが頂いた。メロディアスの素材でお守りとか作って渡してあげようと思う。


 そして、僕たちはその場を後にした。


 


 エルフの里に戻った僕たちは族長とドリアード様に報告した。


 そのチョーカーは今の族長の手に戻った。


 いつか、トゥビーさんがそのチョーカーを巻けれる日が来るといいね。

 

 そして、依頼を成功させた僕たちは、ウガルンダに帰ろうとすると、ドリアード様が残念そうに話しかけてきた。


「あら、もう帰るの? もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」


「ゆっくりしたいのは山々なんですが、依頼なので報告に戻らないといけないので。今度は遊びに来ていいですか?」


「えぇ。もちろんよ。エルフの里全員で歓迎するわ。楽しみに待ってるね」


 ドリアード様はそう言ってくれているけど、アイヤさんは、しっしっ、と僕たちを追い出そうとしているように見える。ほんとに、人間はエルフ族に何をしたんだ。


 みんなに別れを告げ、エルフのの里を後にし、ギルド会館に向けて出発をした。


 そして、その道中。ふと思う。メロディアス前のとき、僕、何もしてないじゃん!



 ウガルンダのギルド会館に着いた僕たちは解散した。


 僕とザーハックさんは、ギルド会館に残りメルさんやマリーさんにエルフの里の出来事を報告した。


「そうかい。それは大変だったね。お疲れさん。今日はゆっくり休むといい。

 それで、こんな事を言うのも申し訳ないが、明日でアルバイトを卒業してもらおうと思っている。

 君たちの活躍でアーティダル王国やシルティタウンから応援部隊が到着してね。まあこれも、約束だから怒らないでおくれ」


「そうなのですね。それは良かったです。寂しいですが、仕方ないですよね。分かりました。お世話になりました」


 そこまで、アルバイトというほど、働いてはいなかったけど、とても寂しい。それなりに楽しかったし。ちょっと急すぎるし。


 でも、これからは、プレイヤーとしてギルドマスターとして、頑張らないといけないな。気持ちを切り替えて頑張ろう。


 少し離れた部屋から、ザーハックさんが僕を呼ぶ声が聞こえた。

 声が聞こえた方向に向かうと。


「疲れているところ悪いな。聞いたぞ、明日でアルバイトを卒業するんだってな」


「ザーハックさんもお疲れ様です。はい、そうですね。明日で最後になります」


「そうか。これからはプレイヤーとしてギルド活動? っていうのをするのか?」


「はい、そのつもりです。橘さんとの約束もありますし。これからは忙しくなります」


「そうか、それは大変だな。その、あの、そうだな。俺も……」


 そういうと、上を向いて固まってしまった。


「俺も、どうかしました?」


「いや、なんでもない。気をつけて帰れよ!」


「はい! ありがとうございました。お先に失礼します」


 ギルド会館を後にした。今日は、コロンちゃんの所で泊まることにした。


 そして、色々済ませて寝ようとした瞬間。ゲームパッドが鳴った。


 開いてみると、来週の月曜日にストーリーイベントクエストを開催するとのことだった。

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