第49話 親善試合開始!


 数分が経ち、ドリアード様が戻ってきた。ドリアード様は僕たちに、親善試合の内容を告げた。


 内容は各代表者、三名を決めて、先に二本先取した方の勝ちというシンプルなもの。

 武器や魔法も使用可能。審判は、ドリアード様が買って出てくれた。


 試合は十分後に開始するという。


 すると、ザーハックさんが口を開く。


「俺があのでかい顎髭あごひげ達磨だるまと戦う。ぶっ倒す!」


 こんな森の中で、ザーハックさんの火属性スキルを使われたら、森が焼けてしまう。それはまずいと思い、


「ザーハックさんの火属性スキル使ったら森が焼けてしまいますよ! ザーハックさんは、火属性以外のスキル使えるんですか?」


「無属性も使えるぞ。まあ、補助スキルだが」


「そ、そうですか。ま、まあ、今回はご縁がなかったってことで!」


「なんだと! おい坊主! 俺にやらせろ! あの顎髭達磨を黙らせるのは俺の仕事だ!」


 ザーハックさんに掴まれながら、そんなやり取りをしていると、一人の女性が声を上げた。


「あの、私が試合にでてもよろしいでしょうか? 

 強くないのは承知してますが、ドリアード様に成長した、今の私を見て欲しくて」


 声の方を向くと、リーフィスさんが、小さく手を挙げ、申し訳なさそうに立っていた。


 僕たちは話し合い、最終的に、一番手にグーファーさん。二番手にリーフィスさん。三番手に僕が出る事になった。


 ザーハックさんは、自分が出られない事に不服のようだが仕方ない。


 あっという間に十分が経ち、親善試合が開始される事になった。



 ドリアード様の案内で、エルフの里の特訓場に着いた。


 たくさんの緑が茂っており、空気もうまい。少し前に、ハニポンに教えてもらった場所に似ている。寝転んだらとっても気持ちよさそう。


 特訓場と名乗っているが、広いだけで、特に何もない。トレーニングする環境ではないように見える。


 素振りや筋トレでもしているのかな? そんな事を思っていると、僕たちおエルフの人たちは、一旦別れ、少し離れた場所に移動した。


 そして、ドリアード様がその場で、木や植物などで出来たベンチを用意してくれた。これが、大精霊の力か。


 そして、フィールドの中央で大きな声で、


「代表者三名! 前へ!」


 その掛け声で、僕とグーファーさん、リーフィスさんは前に出る。他の人は、ベンチに座って観戦する。


 エルフのチームは先程の大男と赤髪の女の子、そして、トゥビーさんのようだ。


 赤髪の子が、綺麗なバク転を披露しながら、フィールドに立つ。そして口を開く。


「さぁて、僕の相手は誰かな?」


 そして、こちらのチームの先発、グーファーさんが前に出る。


「君の相手は俺だよ。お手柔らかに」


 なんだか、落ち着いてる様子だ。そして、ベンチの方で、声が聞こえてた。


「グーファーさーん! 頑張ってー!」

「グーファーさん、期待してますわ」


 ヒロさんとルナさんが応援してくれている。そして、ドリアード様が、


「準備はいいですか……? 親善試合、第一試合アイヤvsグーファー……始め!」


 大きく挙げていた手を、思いっきり下に下ろす。

 

 その合図で赤髪のアイヤさんは、走り出し、一気にグーファーさんとの距離を縮める。


 グーファーさんは剣を振るうが、アイヤさんは飛び上がり、アクロバティックに攻撃をかわす。


「当たらないよ、そんな攻撃」


「見事な身のこなしっすね! まだまだいくよ」


 素早く動き、背後を取ったアイヤさんはスキルを使う。


「これが僕の力だ! 『情熱パッション薔薇ローズ』」


 グーファーさんの背中に一本の赤い薔薇が咲く。その花は次第に大きくなり、10秒くらいで爆発を起こした。


「ぐぅあぁぁぁ!!!」


 その爆発により、グーファーさんは吹き飛ばされた。ゼロ距離での爆発攻撃、相当痛いだろうな。これがエルフの力なのか。


 しかも、アイヤさんの動きも素早い。これを突破するのはかなり困難だろう。


 グーファーさんは背中の火の粉を振り払い、再び剣を構える。


「これが僕の力。『カースドいの薔薇ローズだよ。まだまだ凄いのはこれからだよ」


「凄いっすね。まだまだ俺が見た事のないスキルがたくさんだ。勉強になります」


「お兄さん、凄い余裕だね。その余裕がいつまで持つかな?」


 アイヤさんは再び走り出す。しかし、グーファーさんは、落ち着いた様子でスキルを放つ。


「光あるところ、影あり。闇を纏い切り裂け! 『幻影斬げんえいざん』!」


 突如、剣から黒いモヤが現れると、二人の周りに、不自然な影ができる。


 そして、グーファーさんが、トンっと、剣を地面に触れさせると、アイヤさんの背後に瞬間移動し、闇を纏った剣で切り裂いた。


 トドメに、柄頭で首元を強打させ、アイヤさんをKOした。


「安心して下さい。峰打ちです」


 僕は、あれがグーファーさんの新スキルか! と興奮していたのだが、周りの人は何が起こったのか分からないのか、ポカーンとしている。


 ドリアード様は、倒れたアイヤさんが心配なのだろう。近づきながら呟くように言う。


「しょ、勝者……。グーファー! ーーアイヤ、大丈夫? 今回復魔法をかけるからね」


「ど、ドリアード……様……。僕は負けたのですね。弱くて……申し訳……ありません」


「謝ることはないわ。それにあなたは弱くないわ。彼が一歩強かっただけ。いい勝負だったわ。ゆっくり休んでね」


 ドリアード様は、アイヤさんに優しい言葉と回復魔法をかけると、トゥビーさんが慌てて近づいてきた。


「アイヤ! 大丈夫!? お疲れ様。よく頑張ったね。あとは私たちに任せて!」


「トゥビー。アイヤを休める場所に移動させてあげて」

「はい! ドリアード様!」


 ドリアード様から、アイヤさんを預かったトゥビーさんは、エルフの里の人々が観戦している小屋に連れて行った。


 戻ってきた、グーファーさんは笑顔を浮かべていた。僕はお疲れのグーファーさんに声をかけた。


「グーファーさんお疲れ様です。あのスキルかっこよかったですよ! いつの間にあんな技を!」


「ありがとうございます。上手くいくか不安でしたが、なんとか成功しました。

 ギルド対抗戦の時に戦った対戦相手の……。

 名前は忘れましたが、その人が影から奇襲しているのを見て、いいなって思ってたので。レベルを上げてスキルを取得したんですよ」


「あー。誰でしたっけ? なんとか、ゆうきさんだった気がします。僕もうる覚えですが……」


 ルナさんやヒロさんたちも次々に労いの言葉をかけた。

 

 数分経つと、トゥビーさんが戻ってきて、僕たちの方を見て言った。


「次は私がお相手します! 人間族の方は誰がくるのですか?」


「私が行きます!」


 声を上げたのはリーフィスさんだった。そうなると、僕の相手は、あのでかいエルフの人になるな。

  

 トゥビーさんがどんな攻撃を仕掛けてくるのか気になるところ。

 今から試合に行くリーフィスさんに声をかけた。


「では、リーフィスさんよろしくお願いします。無理はしないでくださいね。頑張って下さい」


 ジークさんも心配しそうに言う。


「リーフィス王女! 危なかったら棄権して下さいね!」


「はい! 皆様、ありがとうございます。では、行って参ります」


 リーフィスさんは、ゆっくりとフィールドへと歩いて行った。

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